第13話 覚醒…ってなんか半可臭ぇ
しばらくすると入札の案内が来る。
今回も500万から1000万だ。
借りもある。今回は200万で入札した。
いつもの1/5の価格だ。
当然ながら落札の連絡が来る。
コンテナ貸倉庫に行き、パソコンを立ち上げる。
今回のターゲットの詳細情報と行動予定表が開く。
さすがに今回は実行しないとだめだろう。
いつも以上に真剣に計画を立て無ければ。
人を殺すだけなら銃や刃物が簡単だ。
それでは捕まる犯人が必要になってくる。
自分が捕まるわけにはいかない。
それにこの組織が望んでいるのは、そんなものではない。
殺人と悟られること無く、万が一気づかれても実行者は疑われること無く対処しなければ”処分”の対象となるだろう。
今回のターゲットはサラリーマンの様だ。
資料には営業職で、車で外回りをしている様だ。
担当エリアも判った。
しかしこれでは実行場所が特定出来ない。
今回はなかなかの難題だ。
しかしそれを考えるのが楽しいと思う渡辺だ。
資料とスケジュールをさらに確認する。
サラリーマンのスケジュールは、切っ掛けになるようなめぼしいものが無い。
平日は仕事、土日祭日はパチンコか接待ゴルフ、ギャンブルも好きな様だ。
あとたまに友人と遊びに行くくらい。
最近はスマホゲームにハマっているようだ。
不意にイメージが湧く。
ターゲットの行動を実際目で見て確かめることにする。
幸い由美は今週いっぱい作業場には来ないだろう。
由美にはネット販売の担当者と打ち合わせがあると言って、朝早めに出る。
ターゲットの住まいからの行動を2、3日確認する。
気になることがあった。
この数日、付けられている気がするのだ。
それも毎日違う人物が。
渡辺は自分自身ターゲットにされている可能性も考慮した。
自分のターゲットだけでなく、そちらにも細心の注意を払う。
貸倉庫に戻り、ネットで検索する。
丁度良さそうなものが見つかった。
「後は実行するしか無いな。結果が運次第なのは仕方ない。後は天に、いや死神様に任せるか」
ターゲットの情報にあった予定表から、ターゲットが今日は有休を取っていることは判っていた。
昼前くらいから競馬場に行くことも。
ターゲットの最寄り駅付近で待っていると、程なくターゲットがやってくる。
電車に乗り、さりげなくターゲットの隣に座る。
不自然にならない丁度良い混み具合だ。
渡辺はスマホのゲームを始める。
しばらく夢中でゲームをし、独り言を呟く。
「これ、めちゃおもしれー。期間内に最高得点獲得で30万は美味しいぜ」
競馬新聞を読んでいたターゲットが渡辺のスマホをのぞき込む。
新聞を読むのをやめ、自分もスマホを取り出し、検索している。
渡辺の言った事の確認が出来たらしい、早速始める。
それを確認し、渡辺は次の駅で降りる。
二週間後、ニュースが流れる。
『昨日、午後3時頃。○○市○○町で自動車の衝突事故がありました。この事故で会社員の××さん、29才が死亡しました。警察によると、××さんのながら運転が原因とみられるとのことです』
死神様は渡辺の見方をして下さった様だ。
(俺って、運が良い、のか?ってどんな運?)
「危ないわね、健一も気をつけてね。ながら運転なんて、絶対しちゃだめよ」
「もちろん。一応ハンズフリーにしているけど、着信があれば路側に止めているよ」
「絶対よ」
(あー、由美さん。本気で心配してくれている。俺は幸せ者だぁ)
「ちょっと、真面目に聞いてる!」
「はい、聞いております。絶対しません」
どうもまた、締まりの無い顔をしたようだ。
着信があり、例によってオークションで200万で落札される。
続けて着信があり、確認すると太田からの呼び出しのようだ。
いつものホテルのロビーに行く。
「渡辺様、今回もお見事でした。それも200万で引き受けて頂き、ありがとうございます」
「これで例の件、借りを返したことでいいか」
「もちろんでございます。それと提案がございます」
「何だ」
「いつまでも両隣が空室というのはあまりにも不自然。こちらで今のマンションのお近くに、新しいお住まいをご用意させて頂きます。ツーフロアのメゾネットタイプで、どちらの階からも出入り出来ますし隠し扉もご用意させて頂きます」
「そんな金、無い」
「ご安心を、支払いは不要です。これまでの渡辺様の働きに対するボーナスとお考え下さい」
(この組織、一仕事いくらで請け負っているんだ?そんなに儲けがあるのか)
「由美さんと同居している。そんな事したら、この仕事がバレる」
「仕事とおっしゃいましたね、自覚されましたか。…表に出せるお金が5000万ほどでしたね、それでは中古物件と言うことで3000万お支払い下さい」
「それでも高い。両親の残してくれた保険金と遺産をあまり使いたくないな」
「形だけ、でございます。そのお金はそのまま例のネット銀行の口座に入金いたします」
「それは有り難い。そうしてもらえると助かる。あと、聞きたいことがある」
「お答えできることでしたら」
「俺を見張っていたね、多分ずっと以前から。ならもう判っているはずだ。俺は実行していない。それなのに支払いがある」
「我々の尾行に気がつくとは大したものです。…この世界はあくまで結果なのです。期限内に対象人物が…。それが全てなのです。あなたが請け負ったものに対してそうなった以上、実際に手を下そうがそうで無いかは問題ではありません。プロセスと結果が組織にとって是か非か。それだけです」
「俺に命があるのはそのおかげ、と言う訳か」
「今、この場に何人います?」
「え、…4人は判る」
「覚醒いたしましたね。才能のある方を育てるのは楽しいことです。しかし、まだまだですな」
「もっと多いのか」
「普段から絶えず神経を研ぎ澄ましておきなさい。それを自然とできるようになれば、その事がご自分を守ることとなります。由美さんの事も」
(それが出来ていればマンションの件も不要だったって事か。うん、今7人出て行ったな。と言うことはそのくらい居たわけだ。はぁ、覚醒って何。俺、どうしたの?)
同時にマンションの件をどう由美に話そうか、悩む渡辺だった。
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