暇な殺し屋
キクジヤマト
第1話 自称芸術家、時々殺し屋…のつもりですが
目覚ましが鳴るより先に外の喧騒で目が覚める。
近くに公園があるため、子供の声が良く聞こえてくる。
「あれ今日、日曜日だっけ」
デジタル目覚ましの曜日は金曜日となっている。
「祭日だっけ。まあ、いいや。目が覚めちまった」
そう言って起きるといつものルーティンを始める。
顔を洗い朝食の支度。
パンをトースターに入れ、ベーコンエッグを作る。
コーヒーメーカーでコーヒーを淹れ、牛乳と野菜ジュースの缶を出す。
コップに多めの牛乳を注ぎ、まず野菜ジュースを飲む。
ペットボトルの野菜ジュースは好きではない。
開けてから日が経つと味が落ちる。
毎日缶の飲みきれるものを飲む。
テレビをつけ、ニュースを見ながらトーストにハムエッグをのせ食べる。
半分食べて牛乳を一気に飲み干し残りの半分を食べ、牛乳を半分だけ注ぎまた一気に飲む。入れ立てのコーヒーを飲む頃には頭もはっきりとしてくる。
歯磨きは食後にすることにしている。
シャワーを浴び、着替える。
洗濯機をセットしこれでルーティン終了。
「さて、出かけますか」
自分の作業場へ向かう。
小さいが町工場を買い取り、作業場にしている。
芸術家を自称しているため、おかしなオブジェが目印の様になっている。
もらってきた廃材の金属を加工して次の作品を制作中だ
作業場の中にある台の上に、なんだか良く判らない作品が鎮座している。
一見オブジェに見えるが、あるもののパーツが隠されている。
そのパーツは手作りのため、見てもなんだか判らないが実は単発式拳銃の部品だ。
バレルとグリップ部分と弾丸の装填部が紛れ込ませてある。
「さてと、今日は廃材の分別をしておくか」
いちいち声に出さなくても良いのだが、つい、声に出してしまう。
今回の廃材は何かの工作機械のようだ。
ドライバー等の工具でバラせるところまでバラす。
それだけで結構バラバラになる。
また組み上げる必要は無いが、バラしながら構造を確認する。
構成部品の形状、仕組み、動作原理等バラす事により意外と知ることが出来る。
そこそこ大きな部品も自分が持ち上げて運ぶようにしている。
それだけで意外と体力、体幹が鍛えられるものだ。
電子基板、樹脂、金属と分別して行く。
金属は小物と比較的大きなもの、割と大きなものの3つに分け、小物は樹脂や電子基板と一緒に業者にリサイクルとして回収してもらう。
残ったものの中から、加工するものと芸術作品にするものを残し、やはり回収業者に渡す。
電気炉も設置してあり、汚れを落としたものを鋼板や鋼棒にしてから加工することもある。
今回は割と収穫のあった方だ。大抵は回収業者に渡すものが多い。
材質や強度、形状も重要なのだ。
同じ鉄にしても日本とヨーロッパで粘りが違う、ヨーロッパのものの方が粘りがあるように思える。
銃のバレルにはそちらの方が良いと感じていた。
丁度今回、それに加工できそうな金属棒があった。
ふと気がつくと、もうお昼の時間だ。
昼食には気を遣っており、作業場のとなりにはどう見ても不釣り合いなキッチンを作らせた。
まず、作業場の手洗いで汚れを落とし、キッチン出入り口付近にある手洗いでもう一度手を洗う。
それから調理に入る。
夜を簡素にしているため、昼食が一日のうち一番重要な食事だ。
今日はポークソテーをメインとした食事にした。
当然アルコールは無し、炭水化物もしっかり摂る。
米の時もあるが、バケットを1本食することが多い。
洗い物をしながらコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる。
自宅と同じメーカーで同じ形式のコーヒーメーカーを使っている。
朝よりも多めにいれる。
多めにする理由がやってきた。
「おお、いい香りがするじゃ無いか。丁度今、淹れ立てのコーヒーか?」
いつもこの時間近くにやってくる山本刑事だ。
地元の警察署の1課の刑事だが単独で動くことが多く、有能なようだが上司の指示に逆らうことが多い為、平のままだ。
「ここを喫茶店代わりにするの、いい加減やめてくれないか?そのうちコーヒー代、請求するぜ」
「いいじゃねえか、俺とおまえの仲だ。俺が来ないとおまえも寂しいだろう」
「どんな仲だよ。それに基本俺は一人でいることの方が好きだ」
山本刑事はある事件(実は自分の実行した?件だが)で、聞き込みに来たのだが、その時に出したコーヒーを気に入ったらしくそれから顔を出すようになってしまった。
記録上は事件性無しと判断されたが、山本は彼が怪しいと思っている節がある。
「おまえ、まだあの車使っているのか?結構きているんじゃないか?」
例の事件時、現場からはかなり離れたコインパークに駐車してあったその車から彼のところに聞き込みにきたようだった。
事件時の管理官も、他の刑事も全く気にもしていない彼の車に目をつけたのは山本刑事の勘のようなものらしいが、それ故彼のセンサーは警鐘を鳴らしていたのだが。
事件性無しと判断された後も、山本刑事は今でも事件と思っている。
「あの車は結構重い重量にも絶えられるようしてあるんだ。もちろん車検は問題ない。結構お金をかけてあるんだ。元を取るまで変えられるかよ。それに気に入っているんだ」
「渡辺、おまえ生活費はどうしているんだ?」
「俺の作品をネット販売しているんだ。意外と売れるもんなんだぜ」
「あんな訳のわからないやつが?いくらで売れるんだ」
「ネットオークションで最高600万。大抵は2.30万くらい」
「かぁー、世の中には変な趣味のやつが多いんだな。驚きだ」
「あの時、俺の口座調べて知っていたんじゃないの?」
「忘れてたよ、そんな事」
とぼけた顔をして、時々鋭いところを突く。
そうなのだ、山本刑事は一見頼りなさそうな容貌でつかみ所がない。
それでいて口は悪く思考は鋭いものがある。
渡辺の仕事の報酬はオークションで支払われる。
依頼人が何クッションも入れて彼の作品を購入させる。
渡辺自体、良く判っていないのだが、フリーの殺し屋を束ねている組織?があるようなのだ。
そこから殺しの依頼が入る。
用件の難易度により金額が上下する。
彼としては人を殺す行為と手間はそう変わらないと思っているため、一律が望ましいのだが、そうはいかないらしい。
つまり、600万がこれまで彼が実行した最高難度の仕事だったわけだ。
「ごっそうさん。今度、美味しい豆を持ってきてやるよ。コーヒー代の代わりだ」
どうもこれからもちょくちょく来るつもりらしい。
もう来るな!と言いたいところだが、渡辺もそんなやりとりを楽しむようになっていた。
午後は金属棒の加工をすることにした。
研削機械は中古だが高性能で高精密加工が出来るものを置いてある。
簡単なプログラムというか手順をインプットし、鋼材をセットしたら後は自動で作業してくれる。
今回はバレルのため、円柱状の鋼材の中心に弾丸より少しだけ小さな穴を開け、らせん状に6カ所、均等な幅で溝を掘る。いわゆるライフル状にする。
工作機械をセットしたら後はできあがりを待つだけだ。
仕上げは自分自身が納得するまでする。
その待ち時間を利用して次のターゲットの情報に目を通す。
「今度のターゲットは医者か。さて、今回はどんな手でいこう」
彼はこんな時間が好きだった。情報から日時、場所、最良な殺し方、それに合う凶器を絞り込む。
毎回手作り銃を使うわけではない、使ったことすら無い。
実際に殺しを実行した事は本当のところ一度もない。
工作も事実上ただの趣味の延長だ。
だが手作り銃は本当に使える…はずだ。
それが何故殺し屋として謎の組織に登録されるに至ったか。
一言で言えば、ただの偶然が重なっただけだ。
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