剥皮のザクロ
韮崎旭
剥皮のザクロ
どういう経緯で私がこんなでたらめを書く気になったのかは私にもわからない。あなたにはわかるのかもしれないが。少なくとも外来の受付でぼろ雑巾のようにっかりくたびれてしまってからというものが移出という外出をしたためしがなく、おおきなゲンゴロウのように部屋の天井付近にふよふよと浮遊していたりした。漠然とした天気の記憶すらない、ただ入り組んだ路地の向こうにもやがかかった回廊をたまに見かけたりしながら、紅茶を煮出そうと試みていたことは記憶に新しい。現象のありかを認めるなら、稲田は桑島大橋から西海道までを遮る不憫な犬の群れだ。実に遠い日に庭に火がさしていたのを覚えているけれども、やはりマリーの作る西日はこのあたりの3番街で一番の出来と評判が高く、そのおかげで下駄箱や郵便受けが白い土鳩でいっぱいになることは避けようがなかった。それは悲嘆にくれる田畑岸波の心境を何とか穏やかさで隠されたものにしたのはいいのだが、真の不穏はとどめようもないほど広範囲に伝染し、司祭は述べた、曰く、人間味な存在するべからず、すべからく自ら死すべし、この領土の絶え間ない拡大はフナや金魚の比ではなく、飼い主のいない腱鞘炎を思わせはしたが、実情に反して明るく晴れやかな色をした氷魚だったのだが、帰り道に後ろを確認することをいつも怠るダンプカーにひかれたから住居に変えることはついぞなかった、其れでもかまわないと思われたのは、作付面積が半畳から5畳に増えた7年間をいとおしむことなど絶対にできないと強く信じていたからにほかなるまい。道路にはりつけにされた怪奇現象は空を恨んで歌う、滅ぶべき、滅ぶべき、われらが都市は頽落しはてた、滅ぶべき、滅ぶべき、人にこれ適切な場所はない、されば、滅ぶべき、滅ぶべき、二重の足のヤギを打とうが、人すべからく滅ぶべし。
反魂のほうは確かに手順という点で誤りが多く不正確でずさんだった、であるがゆえに道々銅版画にしるされた順当な夜勤も代わりがなければ誰でもないカップラーメンになれたように思う。このことを書簡で知ったのはもう3か月も経過してからの話で、誰も見ていないなら端正な受肉を見損ねなくとも、磨き上げなくとも、何もかまわないとあきらめるのは、どうしてかんたんなことであろうか?ヘーゼルで偽装した瞳を明るく望む際にも、今月号の電光掲示板は水槽に沈めた憂愁と幾らも違わないのだと、よく思い詰めることが必要。で、それが牛乳ではなかったとしても、朝日に照らされた町は朝日を受け入れる余地があるというだけで十分に残忍で残酷だったわけだ。
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剥皮のザクロ 韮崎旭 @nakaimaizumi
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