第3話 喪女、キラキラ女子に誘われる

「寺内さーん!寺内さんも一緒に帰ろ?」


 再び七條さんが私に声を掛けてきたのは、翌日の放課後のことだった。

 七條さんの隣には相宮くんとその友達の菊間きくまくんが立っていた。


「……え!?……あ……うん……い、いいよ……」


 咄嗟に声を掛けられて、気後れしたけれど、気分を害さずに断る理由がパッと思い浮かばなかった。

 スマホでアニメを見ながら一人で帰るのが至福の時間だと思っている私にとっては、正直、七條さんの申し出が迷惑だった。アイドルみたいなキラキラ女子とイケメン二人に混ざって帰る、黒ぶち眼鏡のもっさり喪女は傍から見たら公開処刑に違いないのだし。明らかに住む世界の違うグループに巻き込まれ、緊張しながら帰るのが苦痛だった。


「寺内さんってどのへんに住んでるの?」


 七條さんが私の右腕を掴んで、相宮くんと菊間くんの待つ方へ引っ張りながら尋ねた。


「……え!?……えーっと……萩崎町はぎさきちょうのほうで……」


「へぇ、萩崎町のどのへん?」


 相宮くんが興味を示した。


――なんという拷問!!!


「……えっ……あ……あの……」


 緊張しすぎて息ができない!

 繰り返しになるが、普段イケメンどころか、男子全般と会話しない私は、異性と話し慣れていない。連日の相宮くんのイケメンオーラに当てられて、慣れるどころか、足から力が抜け卒倒しそうになるのを、必死の思いで私は踏みとどまった。じめっとした嫌な汗が脇下を濡らしていく。


――やっぱイケメンは二次元に限る!


 二次元愛を新たにしたところで、すでに変な女と思われているであろう私は、開き直って三人の前で大きく深呼吸をした。三人がどんな顔をして私の方を見ているのかは、怖くて見られない。もういっそ瞳を閉じる。


――落ち着け!寺内敦子てらうちあつこ!!!


 自分を見失わないように名前を唱えながら、家までの道のりを思い出す。


「……えっと……あの……喫茶・深瀬のあたり……」


「じゃっ、私同じ方向だ!やったー!!!」


――えぇっ!マジか!?


 喫茶・深瀬に食い気味に言葉を被せてきた七條さんの声に驚いた私は思わず目を開けた。緊張しすぎて、何も考えずに正直に家の場所を話してしまった自分を呪う。

 七條さんは無邪気に両手を上げて喜んで、私の腕に抱きついた。


「……本当?……そうなんだ~。へー。嬉しいなー」

 

 棒読みでそう答える私の眼は、死んだ魚のようだったと表現されても、おかしくないと思う。

 あまり仲良くしたくもない人たちと長時間一緒にいなきゃならないの、つら。

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