寺内敦子の受難
江野ふう
第1話 漫画家になりたい喪女、進路に悩む
――漫画家になりたい。だけど……
自分の気持ちを確かめる脳内会議が、毎夜、寝る前の癖になりつつある。
――みんながみんな漫画家になれるわけじゃないし。
高校二年生の冬。一年後に大学受験を控え、近頃の私は、将来について考えを巡らせては、堂々巡りの考えに
――法学部行ったほうがいいのかな……公務員になるにせよ、会社員になるにせよ、選択肢は、多分、文学部とかよりは広がるし。
「あなたは絶対公務員とかに向いてるって!国家公務員とか!!!だから、東京の大学に行って……」
仕事から帰ってきた母が、夕食の準備をしながら、私に話す言葉を思い出す。
きっと母は公務員になってほしいんだと思う。
東京大学の法学部に行って国家公務員になるのは、一般的には人様に自慢できることのような気もするし、肩書だけでいうとカッコいいなと思う。
――だけど……
親の言いなりに敷かれたレールの上をただただ真っすぐ進むだけの自分の将来を考えると、つまんない人生だとも思う。
――漫画家になりたい。
漫画家になりたいという気持ちはある反面、それ一本で食べていける自信はなく、決意を堅くしては、一方で、不安で押しつぶされそうになる。
公務員になってほしいという親の期待を裏切って「漫画家になりたい」と本心を言えば、絶対に反対されるに違いない。その反対を押し切ってまで自分は漫画家になりたいのだろうか。
漫画家にはなりたいんだ。でも、自信がない。
――漫画なんて趣味で描けばいいじゃない。
私の中のオトナの私が諭す。
――嫌だ!
コドモの私が駄々をこねる。
――どうしよう……
一年後には受験だ。留年しない限りは高校を卒業しなくてはならない。
――答えのない無限の可能性とやらは、本当にキラキラしたものなんだろうか。
私はベッドの上で仰向けのまま、夜の闇の中、目を凝らした。
何も見えない。何も聞こえない。
まさに暗中模索。
――人生、失敗したくない。
何を選ぶべきか。
正しい人生の選択の仕方を、誰か私に教えてください。
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