後編 狂おしく叫びながら、もがいて



 ――ここスペースにおいて、魂という言葉には新たな定義が与えられました。


 R・W・ライリー博士によって予言された「新しい力」の存在は、先日行われた「キヨタ実験」の成功をもって、証明されました。

 人間が持つ、不可思議な力。

 〈魂〉という呼び名を、我々はその力に与えたのです。


 いまだ全容が解明されたわけでもないこの力に対して、懐疑の目が多く向けられていることは承知しています。

 また、それら疑いの視点を持つということが、科学者にとって正当な資質であるということも理解しています。


 それでも、


 どうか、魂という言葉に、偏見を持たないでほしいのです。


 この人類存亡のときに、我々科学者は一丸とならねばなりません。

 この力を研究し、発展させることこそが、あなたがた自身を救うための手立てとなるからです。


 魂。それは、生きるための力です。


 生命が、その生をもって、生み出した力。

 それこそが、この宇宙に現れた五番目の力。


 生命力――つまりは、魂の力なのですから。


                          マリオレポートより抜粋





 ――この世界スペースでは、人類は子孫を残すことができない。

 〈用意されていた動物たち〉とは異なり、人間は、新たな生命を宿すことができない。

 また生後三ヶ月に満たない乳児の死亡率は100% 全て衰弱死だ。おおよそ一歳を迎えるまで、乳児には常に死亡のリスクがつきまとう。

 いわんや胎児においては、たった一つの例外を除き、全てが死産だった。

 ……そう、

 すでに宿った命が、通常の出産の形をとって生まれ得ることを証明した、今に至っても最初で最後のケースが、彼だ。


 はい。


 ――フレミング女史の論文には、目を通したかね。


 はい。勿論です。


 そこで提示された仮説に則れば、彼が生を受けられた理由は、単純な論法で推測できる。


 ・基準値を満たす魂の力がないと、人はS世界において生きていけない。

 ・胎児の彼には、すでに基準値を超える魂の力があった。

 ・ゆえに彼は生まれてきた。


 ということだ。


 はい。


 さて。

 そしてここからが、私の主張だ。


『彼という自己は、どのように形成されたのか』


 ――…多分に空想的な仮説なのだが、聞いてもらえるかな。


 はい。ぜひ――――――――



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 勇者ロイドは、人間ではない。 


 おおよそ人が人を人と識別するための要件を、彼は外見以外に持ってはいない。




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 ――そして最後に――、ですが。


 彼は特別です。

 彼は個人では完結できない。

 彼が力を発揮するためには、願う人が必要です。

 願う人のいない彼は、最弱。

 いえ、そもそも、能力者としては機能しません。


 たとえ、たった一人の家族のため、でも、

 彼の願いは、彼にとっては、無力でした。

 ゆえにあのとき、彼は、破滅的な道を選ばざるを得なかった。


 「彼には願う者が必要である」


 これは疑いなく。間違いはありません。



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 ならば人ならざるもの。



 なれど人ならざるものにも。


 その胸に抱く一粒の願い。




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 ……けれどね。

 確かに彼は、願われなければ、力を発揮できない存在だ。

 それでも、

 彼自身が叶えたいものは、やはりあるのだよ。

 OS能力。

 能力とは、あたう力。 叶える力。

 OS能力・・とは、超常なる魂をもって、ものごとを実現させる力。

 たった一言におさまるような、魂が、望む、その芯が、彼にも、あるのだ。

 ……。

 ――どうしても主観が混じってしまいそうだったのでね。きみには伝えていなかったことなのだが……

 ……彼の一つの発言が、私の考えを変えたんだ。



 ……きかせて、頂けますか?



 ……………………ああ。




 ──────────────彼は、このように言っていた────────。




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 人に恋し――人を愛するこの生き物が、


 その手に掴み取ろうとした結末とは。



 人よ。


 人よと叫びながら、少女への愛を血で示す。


 光を怒りに、笑顔を憤怒に、足掻きもがいた生き物の、




 ――――――――それは、愛と勇気の、物語。


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