save27 大丈夫 神様の攻略本だよ



 管楽器の律動が押す、活動の調べが響き渡っている。洞窟内に音楽を奏でるように、全員が動き回っている。


 ユキは空を飛び、天井付近で、設置の作業をしている。


 ザスーラとマルコは、彼らが辿るルートのチェック。二人、真剣に。


 ロイドはどんどんリュックからアイテムを取り出している。

 ロープ、爆破ポーション、気付け薬の全自動注入器。エトセトラ、エトセトラ。

 それぞれの作業をする人が、必要な分をそこから持ってゆき、次へ次へと進んでいく。


 一人で黙々と作業をしながら、カーティスは、先程の会議を思い出していた。



     ■

 


 開かれた攻略本に、全員が目を通している。

 ロイドが取り出した足つきの本置台の上に、皆の視線は注がれている。

 部分部分を指差して、説明するロイド。

 紙面には様々なデータが見やすいように形成され、写真やグラフなどを交えて、掲載されている。


・ドラゴンは、動かないぞ!

・勝手に動いてはいけないと、命令されているからだ。

・とてもイライラしているようだぞ!


 それら注釈などが入りつつ、有用な情報が並ぶ。

 特に、ブレスは無い、という一文。作戦の成功には、大いなる一助といえた。

 ロイドがページをめくる。


 これがドラゴンのステータスだ!


 大きな見出しの下に、具体的な数値が並ぶ。

 それを確認し、


 ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!! という驚きを、ロイド以外の全員が顔に出した。



 ダークネスドラゴン


  筋力 987

  技力 108 

  魔力 176

  体力 555

 耐久力 740



「なんだこれ……。987とか頭おかしいんじゃねぇか」

「……山すら割れそうだな」

 カーティスのつぶやきに、ザスーラが答える。

 ユキは、あわあわと口を抑え、マルコは自分の決意を確かめるように、ぎゅっと握りこぶしを作った。

 クリスは沈黙している。

「……よう、クリス。

 策を練り、準備をすれば、勝てると思うか?」

 苦笑して、クリス。

「意地悪なことを聞かないでくれよ……」

 はっ、と、カーティスも笑う。

「つーか、マジで四桁目前の数値なんて初めて見るぜ。

 全ステータス三桁超えがすごいとか、そんなレベルじゃねえ。

 合計が、2500。冗談きついぜ。俺らのうちでいっちゃん高いクリスでさえ、600に届いていない。

 こんなもん、竜王のステータスがどれくらいかはわからんが、迫るものがあるんじゃねえか」

 確かに……。という気分を、仲間たちが表す。


「というか、耐久力740。ある意味こいつが一番やばい。ここまで来ると、そもそもダメージが通らないからな。

 その意味では、俺らレベルが百万人いても無理だ。

 ……こいつはどうするんです? 勇者さん」

 問いかけに、ロイドは答えた。

「口内に、BOBを。

 それによる、クリティカルを狙います」

 んー……と、言われてカーティスは考える。

「……確かに、口内であれば。このステータスなら……およそ耐久力200相当ってところか。それでも相当だが……。BOBなら行ける……範囲、か」


 “Breakoutブレイクアウト”・ボム。


 とある刑務所で囚人が壁打ちテニスを行なっていたところ、ラケットの振りとガットの角度が奇跡的なマリアージュでアンサンブルを奏で、さながらヌーの神の加護を受けたかのごとくにテニスボールが超振動、ヒットした刑務所の壁を原子崩壊せしめるという事態が発生した。


 とある理論物理学者の自由な説明で世に広まったこの現象を解析、解明して攻撃用アイテムに転じたもの。それがBOBである。

 後年、バウンドアウトボール、というスポーツに転用されたとある特性と、それなりのカスタマイズ性を持つ起爆の設定とで、トリッキーな攻撃が可能。

 火力自体は、一定の耐久力以下の物質なら、問答無用で消失させるほどである。


「――まあ、行けるでしょう」

 カーティスは頷いた。

「なんてったってうちのパーティー、盗賊の俺が、アイテムだよりの最高火力担当なもんでね。自他ともに認める不精もんの俺ですが、それの知識にだけは自信があるんですよ。

 ただ、火力自体は足りているにしても、問題はどう狙うか、だ」

「はい」


 BOB、打ち出した弾体は、けして高速で飛ぶわけではない。

 それを口内に叩き込むとなれば、真正面から不意を打つ、などという離れ業が必要になる。

「それについてですが、策はあります。

 これは最後に、説明します」

 ふむ、と頷くカーティス。ロイドは、次のページをめくる。

 黒塗りのシルエットに、?の描かれたイラスト。


・謎の三人組! その正体は!?

・いまは秘密だ! ただし今回は、静観するだけのようだぞ!


 角の男、コートの男、そして包帯の男であることが、影絵からも分かる。

「少なくとも今は、敵となって立ちはだかることはない。それは、三人と出会って、確かと信じられました。彼らについては、無視をしても大丈夫です」

 ページをめくる。付録と題され、このダンジョンの詳細なマップが載っていた。

「そしてこれが、最後のページです」

 開かれた紙面に、一つの文章。


・さらわれたお姫さまは、無事。


「おお…。」

 クリスらが、安堵の息を吐く。

「……ちなみに、無事、の定義などは」

 と、カーティス。

「さらわれたあとに入れ替えられたりしておらず、危害も加えられていない。神様は、そう言っていました」

「……なるほど」

 カーティスは、続く言葉を見る。


・さらわれたお姫様を助けだしたそのあとは……?

 ここから先は自分の目で確かめよう!


 それを結びとして、本は終わっていた。

「それでは最後に、行動の計画ですが」

 本を閉じ、ロイドは言った。

「最終的な目標は、ぼくがドラゴンに対して、BOBでクリティカルを狙える状況を作り出すことです。

 そのためのプランが、こちらです。用紙に印刷しておきました」

 一人にひとつ、手渡された綴りに目を通す。

 一枚目には、全体的な流れが描かれていた。

 この時点で初めて、皆はロイドが言う計画の全貌を知る。

 クリスらは、絵を見るように。

 カーティスは、空を見るように、天井を見上げた。


 全員の視線は、ロイドに注がれた。

 彼は、ぴくりとも動揺していない。

 泰然と、笑みを浮かべるだけだった。


「……冗談じゃあ、ないらしいな」

 しぶしぶといった風にも聞こえるカーティスの言葉。

 メンバーには、面白がっている響きだと、分かった。

 お互いの意思を、ルミランスターは確認する。

 マルコはと見れば、そこにはやる気しかない。

「お願いします、ザスーラさん」

 用紙に目を通し、ザスーラに願う。

「ああ」

 騎士は頷く。

「戦う者は、俺が守ろう」

 マルコは瞳を輝かせる。

 ユキが続く。

「が、がんばりますっ!」

「ご助力、させていただきます」

 胸に拳を当てて、クリスも言う。


「お願いします」


 頭を下げて、ロイドが言った。


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