少年兵×悪魔×超兵器×ヤクザ

ハナブサハジメ

プロローグ

「ああ……こんなの初めてだぜ」

 女の顔が、牙のように発達した犬歯を覗かせて笑む。

「疼くんだ、子宮がよ。なァオイ、分かるか? コイツはなァ、愛の告白ってやつだぜ」

 顔面を除いて、女の全身は赤黒い眷属の群れに覆われている。

 ひるに似た姿の眷属それらは無数に集まることで、強化服の如く女の筋力を増強させ、ただでさえ超人的な身体能力を何倍にも高め上げていた。

 相対する少年もまた、右半身に人工筋肉と積層装甲から成る半身鎧ハーフアーマーをまとい、その手には身の丈ほどもある大剣を携えている。

『気を付けて下さい、この敵はこれまで戦ってきた相手とはまるで違う』

 少年の耳元で声がした。一人の人間が発した言葉を複数の録音機で同時再生したような、何重にも声が重なった奇妙な響きだ。

 声とともに、黒い霧が集まるようにして異形が姿を現す。闇色の外套がいとうに、羊の頭蓋骨を象った仮面。その頭頂には高位階の霊であることを示す紫色の光輪が浮かんでいる。

 それは普通の人間には見えず、声も聞こえない、契約を結んだ者にのみ認識可能な霊的存在だった。

『前回の戦闘で消費した霊力も、まだ回復していない。決して無理をしないで下さい』

「大丈夫だよ、ナル」

 少年は異形へ頷きを返した。

「ナルはおれの所有者で、おれはナルの〝道具〟だから。〝道具〟は人みたいに怯えたりしないし、絶望することもない。ただ役割を果たすことだけが〝道具おれ〟の存在意義だ。所有者はただ命令すればいい。自分が〝道具〟に望むことを」

「なぁに、ごちゃごちゃくっちゃべってんだ。テメェはよッ!」

 そう言うと突如として少年の眼前から、女が姿を消す。

 着地音。すぐ傍に霊力を感じる。右斜め後方。

「行くぞ、オラァ!」

 女が中指を立てる仕草――〝ファックサイン〟を取りながら、蛭の群れに覆われた右腕を振るう。

 瞬間、中指の第一関節を起点に筋電義手に内蔵されていた折り畳み式ブレードが展開し、少年の胴へと繰り出される。少年は片脚を軸に身体の向きを変えつつ、大剣で斬撃を受け止めた。

「ん~。相変わらず感度良好だな、ええオイ?」

 女のブレードには鋸状の細かな刃が生え、刀身に食い込んだまま微細な振動を繰り返し、橙色の火の粉を散らせている。

 少年は力任せに大剣を振るい、女を突き放した。

「ナル、命令をくれ。いつものように」

 傍らに佇む自らの主に、少年は語り掛ける。

 ナルと呼ばれた異形は首から下げたロザリオを握りしめると、『神よ』と呟き、そして少年に命じる。

『この者の魂は、更生の余地も慈悲をかける価値させないほどに穢れている。神の名の許に、今この場で裁きを下しなさい!』

了解コピー

 主の宣言とともに、少年が正眼の構えを取った。

 相対する女は、飢えた獣のように歯を剥く。

「いいねぇ、まさにクライマックスって感じじゃねぇか。俺とお前、どっちがヤるかヤられるか、白黒はっきりつけるまで――愛し合おうぜぇ……ブギーマンッ!』


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