第30話 めろめろ♡ブロッケン
「めろめろ♡ブロッケン」
作詞・作曲 リリス
編曲 ヘビ男P
ラブ♡ラブ♡ラブ♡ラヴ♡ヴァルプルギス
ドキ☆ドキ☆ドキ☆ドキ☆ブロッケン
めろ♡めろ♡めろ♡めろ♡メロディアス
うき☆うき☆うき☆うき☆ソシオパス
(セイッ!)
お昼過ぎちょっと退屈
流れてくる、ゴシップに
セレブレティなスキャンダル
なんだかちょっぴり憧れちゃう☆
(セイッ!)
もしも、アナタがワタシの元へ
戻って来て、くれるなら
もしも話よ、もしものハナシ
(RAP)
ねえ、ホントに二人はダメなの?
やり直しとかって、出来ないの?
別の
違うのワタシの勘違いなの?
アレ?今オンナの声が聞こえたけど?
ちょっと、その面倒臭いって顔やめてよ
なに?ワタシが全部悪いの?
もう話したくないの?会いたくないの?
ダメダメもうダメダメ
これ以上続けたら多分、ワタシ
アナタとソイツ、そう、そこのオンナ
八つ裂きにしてブチコロコロコロコロ♪
悪い。これがアタシの限界だ。もう耐えられない。
もしもアンタがこの歌の続きをどうしても聞きたいって言うなら、実際ヴァルプに行ってみりゃ良い。どうなっても責任はとらないけどね。
そんな感じの脳ミソ溶け溶けソングを生で聴かされて、流石のアタシも
アマル叔父さんが頑なに行きたがらなかった理由がよく分かった。編曲にある蛇男ってのはアマル叔父さんのこと。アレンジに携わっているところを見ると、無理矢理お袋に曲提供をさせられたのだろう。それはつまり、このクソ歌の制作に立ち会ったということだ。自分にそういう才能がなくて本当に良かった。心から思うね。
さて、いかに好色なご主人様と言えどこんなワケの分からん歌を聞かされたらドン引きするだろう。マトモな神経の持ち主ならあんな歌を歌うヤツに関わろうとは思わないはずだ。
もう恋愛ゴッコは終わり。顔は出したんだから護衛の役目も終了でいいだろ。
あたしはさっさとこのメインステージからオサラバして、バーカウンターで一杯ひっかけようと思った。
その時古い
お袋のパフォーマンスはまだ途中だったが、あたしは結界の中にいるタケルの方に目をやった。きっと苦悶と後悔に歪んだ顔をしているに違いない。そう思っていた。
「うぉぉぉ!リリスゥゥゥゥゥゥゥゥ!リリスゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
そこには汗だくになりながら、天高く拳を突き上げ、あたしの母親の名前を連呼するご主人様の姿があった。今にも結界をブチ破ってしまいそうな勢いだった。
「嘘だろ……」
信じたくない光景だった。このライブ会場にいる誰よりも凄まじい熱気をおびながら、タケルは大声で叫び続けていた。
「なにやってんだ……アイツ……」
正直もう護衛どころではない。あたしは結界を緩めてタケルの元へ駆け寄った。
「ちょっ、ご主人様!なにしてんですか!?変なクスリでもやってんですか?」
タケルは肩で息をしつつ、ステージからまるで目を逸そうとしない。
「邪魔してくれるなメフィスト。俺は今この瞬間、確かに生きていること実感してるんだ。
いや、なに言ってのこの人。そういう台詞はもっと先で言うんだよ。もっとこう、死に直面してるような終盤で言うんだろ。こんな場面で言う事じゃねえよ。
「あんな歌の何が良いんですか?イカれるのも大概にして下さい。さあ、もう退散しましょう。やはりここは人間の来るべき場所じゃなかった」
あたしが手を引っ張ろうとするのを振り解き、タケルは真剣な表情で反論した。
「あんな歌?お前は何も解っちゃいない!あの歌には隠された哀愁がある。叶わぬ恋の想いが秘められている。そこに俺は、胸を打たれたのだ。応援せずにはいられない」
あたしの脳みそが理解する事を全力で拒否する発言だった。狂人にはついていけない。
「ご主人様。それ、冗談や酔狂で言われているワケではないんですね?」
「もちろんだ!俺は今、猛烈に感動している!」
熱血アニメの主人公かよ。
あたしは頭を抱える。本気でヤバいな今回は。あたしの思惑とは裏腹に、物事がどんどん面倒臭い方にいってる気がする。
あたしは面倒臭いのが大嫌い。
「解りました。では曲が終わったら帰りましょう。それだけ約束して下さい。でないとマジで危険なんですよここは。良いですね?」
と、その時だった。
「ごめ〜ん♡みんなあ。お待たせえ!最後の曲、いっくよお!!」
計ったかのようにいつの間に着替えたのか、お袋がゴスロリ衣装で再登場した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
周囲にいた悪魔たちとタケルは、何故か衣服を脱ぎ捨て、パンイチで走って行った。お袋の唾液がかかってきそうなスレスレの位置について、曲に合わせた奇妙なダンスを汗だくになりながら踊り続けた。
あたしは少し離れた所からタケルの様子を伺っていた。やっこさんは悪魔どもに混じりながら精一杯のダンスを見よう見まねで踊っていた。
不思議と、悪魔たちも人間であるタケルを受け入れている。その姿はかなり滑稽ではあったものの、それを馬鹿だの阿保だのと笑い飛ばすには、奴らはあまりに眩しい笑顔していた。
あるいはタケルは、音楽を通して異種族との友情ってやつを育みはじめているのだろうか。そう思うと、奴が自分の教会で唱えていた「万物を差別なく愛せよ」という精神は、あながち嘘ではない、奴の本心なのかもしれない。
ただ、タケルの踊る姿は壮絶にキモかった。
続く
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