十
「あの人、私が原因でうつ病になったとか言うのよ。こんなに献身的なのに、ふざけてるわよ。あの人のお酒に関しては、ただ好きなだけよ。それをあのやぶ医者がアルコール依存症だなんて診断しちゃって、あの人はそれも私のせいだなんて言い出すのよ!」
「それで別居はどちらから言い出したのでしょう?」
警察官の質問に、女の人は文字通り殺気立って答える。
「私からよ。あのクズ男、トトリが可哀想なんて言い出して……このままじゃトトリがあの男におかしな教育をされると思ったら、危なくてそばに置いておけなかったのよ。それでもあの人の荷物をアパートに持って行った時には、私に感謝してたわよ」
「感謝とは、具体的に何を言われたのでしょうか?」
「あの人ね、俺を想ってくれるお前の想いには答えなきゃなって言ってくれたのよ。頑張るからって。それで、禁酒が成功したらトトリに会わせてほしいって言うのよ」
「何と答えたんですか?」
女の人は「そうねって言っといたわ」と答える。
「会わせるつもりはないけれどね。当たり前でしょ? あの人からトトリを隠したって言うのに、会わせてどうするのよ。だからあの人には、トトリが会いたがらないって伝えたわ」
「それで」と、女の人が私を睨み付ける。
「トトリはどこよ」
私は何と答えるべきか悩んだけれど、意を決して話す。
「トトリがお父さんが行方不明になったと言っていたので、私と二人でトトリのお父さんを探しに行きました。今トトリはお父さんの家にいます」
私の言葉に、女の人は発狂した。
ふざけるなだとか、連れ戻すんだとか、殺されるなんて言葉が辛うじて聞き取れた。
そこへさっき勝手口から出て行った天狗が戻って来た。
「て、天狗……!」
思わず後ずさる警察官に向き、天狗は言った。
「サヅチの部屋にトトリはいなかった。サヅチは風呂場で血を流して死んでいた」
その場の空気が氷る。舞うようだった雨が強く降り出す。
「そんな……探しに行かなきゃ!」
夢中でそう叫び走り出そうとすると、ケンに後ろから抱えられる。
どうやら眠らされたみたいだと気付いたのは、立っていられなくなったからだ。
「ごめんね。大丈夫だから眠っていて」
そんなケンの声を聞きながら、私は抗えない眠気に落ちていく。
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