第72話 今さら気付いたこと

フレンシアさんの登場から数時間が経った。


彼女はあれから高速で奴隷たちに冒険者証を発行し、クランに人を分配していく。

ただ、その口文句は『お駄賃が出るらしい』という些か、胡散臭いモノだった。

それでもギルド職員でもある彼女はユニークな会話で事を前のめりで進めていく。


そのパワーはミミにも伝播して『手伝ってくる』と自発的に言わせ、あまつさえグーファやリリアナも『自分たちも行った方が良いでしょうか』と聞いてきてしまう程だった。


「順調なのは結構だし、手伝いに行くのも良いけど……こっちも手伝って欲しいんだよな……」


その一方、私たちを含め、多くの魔王討伐隊の一団は野営地を引き払うべく用意を始めていた。正直、フレンシアさんにやきもちを焼いてしまいそうだ。


「いいですよぉ~だ! 私一人だってそんな大変じゃないもん。ぐぬぬ……ふんっ」


それでも面倒くさいモノは変わらない。

かたや、あちらを見れば黄色い声が飛んでいて楽しそうなのだから頭にも来る。


「あー……なんかイライラしてきたな。んっ――<クロージングっ!>」


『どうせしまうなら~テントなぞ、このまま閉まってしまえ~ホトトギス~』ということで、怒りに任せて詠唱をすると綺麗にインベントリーへ吸い込まれていった。


「ぬぉ? これは……えへへ、革命来たんじゃない!? ってぇ――だぁ~!! 私バカだぁぁ! もうっ!!」


思わず、その場で頭を抱え込む。

今更になって自分に使えるスキルの有用性に気付いたのだ。

今だけは地面に頭をぶつけまくりたい気分だ。うん、アニオタとして失格過ぎる。


「でぇ~も~さぁ~? こうなれば、こっちのもんよなぁ~?」


ニタッと笑みを浮かべながら周囲を見回す。

周囲の冒険者からはどこか痛い視線を貰っているが、気にするもんじゃない。


「えへへ、<クロージング!>、<クロージング!>」


バッ、バッとテントを軽く何個か取り込み、その後に私は今まで付き添ってきた馬の元へ寄った。そう、そもそも生き物をクロージングできるのだろうかという疑問もあったからだ。


「よしよし」

「バゥルル……?」

「――今から君は尊い犠牲になるのだよ?」


私が手を向けると愛馬は大きく目を見開く。

きっとテレパシーが通じたのだろう。私の被検体になれてうれしいんだろう!


「<クロージング!>」


その刹那、愛馬は目の前からブルーエフェクトを伴い、目の前から消え去って行った。つまりは『生き物でも行ける』ってことだ。


「ほぅ! これぞスキル!! アメージング!!」


そして、今日数回目の冷たい視線を浴びる。

でも、最早こんな視線なんぞ、慣れたものだ。

知らない、シラナイ。ワタシじゃない。


「でも、さすがに……可愛そうだから<ドロップ>っと」

「……!? フゥン」

「怒らない、怒らない。ごめんね。ヨシヨシ」


当の馬は一瞬、何が起こったか分からなかったかのようにソワソワしている。

でも、とりあえず害ある事をされたと愛馬は認識しているらしく、機嫌が悪い。

私は咄嗟に近くにあったニンジンを咥えさせて誤魔化す。


「おーい、エリ……カぁ……? お前、何やってんだ?」

「お? ウェイド! えっ~とぉ……これは~う~ん? 餌付け?」

「なんで今更……」

「いや、そんなことはどうでもいいでしょう!? 何か用があったんじゃないの?」


自分で言っておきながらあれだが、ウェイドの突っ込みは正しい。

みんなが荷物の撤収を急いでいるというのに、私だけノドカに馬へ餌を食わせているのだから――。


「あぁ、なんやかんやあったが、あのフレンシアって言ったか? あいつが全員に冒険者証を発布した。これでもう行ける。それで例のスクロールだが――」

「うん。それは準備ばっちり。配っちゃおうか」

「ああ、頼む。それからここだけの話だが――」


そう言ってウェイドは耳元で私に『ある事』を囁いた。その内容を聞いた私はこくりと頷いて肯定の姿勢を見せると彼はため息を吐いて青空を見つめた。


「さぁ、グズグズしても居られん。用意を完遂して出発しよう。俺たちの平和を取り戻すためにな」

「本当にね……。お互い気張って行きますか!」


そして、私たちは足を奴隷たちの方へと進めたのだった。


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