第58話 魔王軍の急襲
「緊急、緊急! こちらはフレストギルド本部です! 魔王軍が街の中に侵入しております! 住民の皆さんは直ちに避難してください! これは訓練ではありません! 直ちに避難してください!!」
甲高い警報音と共に、フレンシアさんの声が響き渡る。
私とグーファ、リオーナさんは馬に乗って駆け出していた。そして、それを追随するようにウェイドが駆けてくる。
「エリカ! 俺は一度、私兵を連れて街に入る。お前はなんとか、魔物どもを処理しながら住民の避難を開始してくれ」
「わかった! こっちも最善は尽くすよ!」
「わかっているとは思うが、気を付けろよ!」
そう言って私たちからウェイドたちは離れて行った。見送りながらも混線するトランシーバーに声を吹き込む。
「状況は!? 魔物はどこから来てるの?」
「クソ、街の中心部だ」
「中心部ってどういうことですか!? アレスさん!」
「あいつら、地中を掘って街中に出やがったんだ!」
意表を突かれた魔物の行動にクラッとするが、ここで倒れる訳にも行かない。
私は副長として次なるプランを考えざる終えなくなる。
「全クラン、各担当ブロックから中心部に向けて前進しつつ、可能な限り、住民を救い出して!」
つんざく様に声を吹き込むが、回線は常に混乱状態で交戦状態の声が響く。
それがいかに、まずい状態なのかを示していた。最早、防衛隊の私たちに残された選択肢は『目に見える脅威の排除』しかない。
「私たちも急ごう!!」
ここまで早急な事態に発展することを予測していなかった私は守りを一切置いていない。このままでは犠牲者は跳ね上がるに違いない。しかし、私たちが現場につくとそこには一人の『猛者』が魔王軍を威圧しながら進んでくる魔物をぶっ叩き斬っていた。
「遅かったな、副団長!」
「アルギオンさん!? どうしてここに!」
「まぁ、偶然だな……って、剣星まで居るとは――やれやれ。話はあとだ! 見ての通り、街の中心地からうじゃうじゃと魔物どもが出ている。まずは民間人を逃がさなくてはな!」
アルギオンさんが指さした方向を見れば地面が盛り上がっており、まるで巣が出来たようになっていた。あそこから魔物が出てきているらしい。
「行くよ、2人とも!」
「「はいっ」」
私たちも剣を抜刀し、魔術を織り交ぜながら迫りくるゴブリンや骨で出来た魔物『スケルトン』を相手取りながら戦い始める。しかし、当然ながら力を合わせても魔物の量は減る兆しが無い。
「このままではまずい! 何か策を練らねば我々も危ういぞ!」
リオーナさんの言葉に私は周囲を見渡す。魔物が出現して15分程度経過したとはいえ、悲鳴が聞こえている様子からしても逃げ遅れている人はまだ一定数居る。だが、ここで撤退すれば絶対に犠牲者は増える。
ジレンマに陥りながら考えを出せずにいるとアルギオンさんが叫ぶ。
「副長! 坊主を連れて避難誘導に行け!」
「ば、そんなこと無理――」
「ここで悩んでいても助かる人間はわずかだ! その時間を稼げるかどうかも不明だ! 後悔だけはするな、この時間を無駄にするんじゃない!」
まさに闘神と化した表情を浮かべながら私に指示を飛ばす。それが防衛隊の団長としての決断だったのだろう。それを擁護するようにリオーナさんがアルギオンさんに襲い来る魔物を華麗な剣裁きで斬り捨てる。
「私も彼に同意見です。それが最も人を救える可能性が高い。ハッキリ言ってあなたたちが居ると私たちも全力を出し切れない」
「ここはエリカ。彼らの言う通りに――!」
「ちょっ、引っ張らないでグーファ!! 絶対に無理はしないでくださいよ! これが最後なんて許しませんからね!」
魔物の大群を前に歩いていく二人の姿は死へ向かうようなオーラを漂わせている。
それを察してなのか、グーファは彼らの意志を無駄にしないように必死に入り口の方へ向かって私の手を引っ張って駆けていく。
そして、すぐに防衛隊が作成した地図を広げる。
「よし、今はここだからこっちから行きましょう!」
「……大丈夫かな」
「エリカ! 今は目先のことを」
「そうだね。ここで悩んでる場合じゃないよね」
2人が作ってくれた時間を無駄にしないように声を張り上げていく。しかし、さすがにフレンシアさんの声掛けもあってか、ほとんど魔物の這いずる音や戦いの音以外は静まり返っており、ゴーストタウンと化し始めていた。
「エリカ、そっちに逃げ遅れは!?」
「いない!――あっ! グーファ後ろ!」
「っ! させるか!!」
グーファが振り返った先には大きなオーガが棍棒で親子を叩き潰そうとしている所だった。その間合いは到底、届かない。オーガの方が絶対に殺す方が先に違いない。
しかし、グーファが地を蹴ると風に乗る様に速度が上がり、少し回転気味に接近すると勢いそのまま、オーガの腱を斬る。到底予測すらできなかった攻撃にバランスを崩したオーガは前に倒れ込む。その様子を横目で確認したグーファは容赦なく、剣を素早く翻して首を斬り飛ばし、赤い鮮血を飛ばす。
「はぁはぁ……大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございますっ……! よかった、俺たちは生きてる。本当によかったぁ……!」
親子にとっては魔物との接敵と飛び散る血潮のダブルパンチで恐怖を覚えたのだろう。私たちは彼らに逃げるべき道を教えて入口の方向へ逃がす。
そうしている最中、入り口の方からぞろぞろと旗を翻しながら向かってくるウェイドたちが見えた。私の存在に気付くと「よっ」と言わんばかりに手を上げる。
「エリカ、現状はどうなっている?」
「ここから奥にはもう街の人は居ないと思う。ただ、アルギオンさんとリオーナさんが――」
「あのバカ共が、隣国の地だというのに……!」
そうしている最中、街中でまた再び、放送が鳴り響く。
「こちらはフレストギルド本部です! 南側周辺のエリアは魔物が非常に多いです! 西か東の入り口を目指して逃げてく――きゃあああ!」
「フレンシアさん!」
「こっちは任せておけ、大丈夫だ! 行け!」
私は頷いてすぐさま、グーファと共にギルドへ向けて慌てて駆け出したのだった。
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