開幕直前

ロイヤルズはオープン戦をなんとか勝率5割で終えることができた。そして開幕を目前に控えた3月下旬、京都伏見スタジアムのミーティングルームで、岡本監督ら首脳陣が一同に介しての開幕一軍メンバー28人を決める会議が開かれた。




「では、はじめましょうか。まず内訳ですが・・・28人のうち、投手は15人登録します」




岡本監督の切り出しに、にわかにコーチたちがざわめき始めた。




「15人?ちょっと多すぎませんか?」




全員を代弁するように佐々木ヘッドコーチが聞く。岡本監督はこう返した。




「先発ローテの6人とリリーフの9人をいれるつもりですが、それが何か?」


「先発を6人とも入れてしまうんですか?」


「私は頭数を揃えるためだけに選手を一軍に呼ぶつもりはありません。ましてや開幕一軍は一年間戦うチームを誇示するための格式の高いもの・・・実力もないのに入れるのは失礼というものでしょう」




通常、先発ローテに組まれたピッチャーがリリーフに立つケースはあまりない。そのため、開幕当初は登板予定のないピッチャーの代わりに野手やリリーフで穴埋めし、先発投手の登板日に入れ替えるというケースが多い。しかし、岡本監督は一軍は単純にそれに足る力を有する選手だけを登録しようとしている。




「それに、一軍登録をしたからといって、二軍の試合に出れないわけではありません。むしろ一軍にいて緊張感を維持してもらいましょう」




まずリリーフの人選に入る。昨年勝ちパターンで起用された山崎と石井、そして今季福島からFA移籍した中山、ドミニカ出身の新外国人・ゴンザレスは順当に選ばれた。そしてオープン戦で好投した前田と斉藤、今季岡山からトレード移籍した松田と西山もブルペン担当の早川コーチの推薦で一軍入りとなる。


そして最後の一人には、会議当日に育成選手から支配下登録された、快速球が持ち味の山下が、宮本コーチの推挙で選ばれた。




「あいつはまだまだ荒削りですが、ストレートの威力はそれこそ鈴木並にあります。一軍の雰囲気になれれば化ける可能性もあります」



そう宮本コーチは力説した。




続いて先発投手だが、鈴木と渡辺、メジャー通算33勝の新外国人・ニクソンの3人は満場一致。しかし、6人でのローテーションを予定している中で、あと3人の先発投手は消去法で選ぶことになった。




「うーん・・・関口と、佐野かなあ」




渋い表情で佐々木ヘッドコーチはつぶやく。いずれも昨年のローテーション投手だが、どちらももう一つの戦績。去年は2人で22敗という有様で、鈴木と渡辺がいなければ間違いなく最下位転落の戦犯扱いだった。ただ、3人以上に先発としての経験が豊富な選手は3本柱以外に見当たらず、オープン戦の内容も及第点だったので選ばれた。残るは1人。ここで岡本監督が宮本コーチに尋ねる。




「私が決めていいんですか?」


「ええ。あなたは現役時代、ロイヤルズのエースとして長年活躍し、その年もっともすぐれた投手に贈られる『沢村賞』を3度も取った200勝投手です。その感性でどうぞ」




しばらく考え、宮本コーチは決めた。




「太田でいきましょう。アイツはとにかく使える変化球をたくさん操れる。器用貧乏なところは否めないですけど、試合を作る先発としては悪くないんじゃないかと」




宮本コーチが推薦する太田は入団4年目の左腕投手。スライダー、カーブ、カットボール、チェンジアップ、フォーク、スプリット、シンカー、シュートととにかく使える変化球が多い。昨シーズンは1試合しか登板機会がなかったが、ここまでのオープン戦は3試合18イニングで2失点と結果を残していることもあり、岡本監督は決めた。




「では続いて野手ですが・・・。キャッチャーは加藤と松本の2人を登録します」


「ちょ、ちょっと待ってください監督。キャッチャー2人だと、どちらかが交代したり、怪我した時に・・・」




岡本監督の案に佐々木コーチは立ち上がって反論し山口バッテリーコーチもそれに賛同する。




「それに松本は監督に対して露骨に不満を持っています。不穏分子を入れたままというのは・・・」




だが、岡本監督は動じずに意図を説く。




「確かに。しかし、ウチは13人しか野手のベンチ入り登録をしていませんし、何かあれば元捕手の青木か小林にマスクを被せようと思っています。それに山口コーチの指摘するように松本が私を敵視しているのは分かっています。しかし、彼は力のあるキャッチャー。加藤よりもウチの投手陣を良く知っている。それに、チームの改革の手法は『刷新』だけにありません。既存選手の意識を変えることもまた改革ですよ」




そしてそのまま内外野手の選抜に入る。


まず内野手はほとんど迷いがなかった。4番の佐藤は今季から外野メインだが、韓国リーグで2年連続本塁打王に輝いた新外国人・ウィルソン、昨シーズン二軍の本塁打王に輝いた右のスラッガー・山本、今季からはショート・セカンドの他に、ファーストやサード、そして外野も守っている武田に加え、そして伊藤、山田の両ルーキーも選ばれた。


そして外野手もジョーンズと小林を筆頭に、捕手から転向して2年目の左打者・青木、投手から転向して2年目の強肩の右打者・野口、入団5年目の俊足スイッチヒッター・村上ととんとん拍子に決まった。




戦う順番は、ほぼ整った。

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