第5話王様はダンディなおじさまライオン。自ら保育園視察に登場だ!


 カロンくんとメロウちゃんが行方不明?!という一大事に登場したのはこのアルアローザの王様ライオンの獣人ダムド国王陛下。


 カロンくんとメロウちゃんはその気配を察知して見に行ったのだという。

 私は分からなかったし、シャロンさんやミーナさん、エリンさんにライラさんも子ども達に気を配っていて王様の気配に気づかなかったようだ。

 迎えに行った草原でミーナさんはようやく王様の気配を察知したという。

 とにかく安全だったので、一安心して王様一行と保育園に戻ることになった。

 子ども達と歩きつつ王様ご一行のお話を聞けば、今回この村に来たのはこの子ども達の保育園の視察だという。


 いままで、学校はあったけれど小さな子を預かるという発想がこの国ではなかったのだという。

 当たり前のように乳飲み子は母と一緒に過ごすものだし、学校まではみんな一緒に過ごす形だったのだ。

 誰も文句も言わず、母親が大きな負担でもってそれをこなしてしまっていたから、大変なことだと分かっていなかったのだ。

 今回のこの試みが良ければ、羊族の村以外でも国主導で事業として興そうと検討中なのだとか。

 ここの保育園もまだ出来て一か月といったところなのに、もう王様にその内容が伝わっているとは驚きだったが、聞けばこういったなにかを村で行うときは必ず村長が国のトップに詳細に報告しているらしい。


 なので、ここに落ち人の私が住んでいてこうした事業を始めたことやきっかけなどもローライドさんからダムド様に伝わっていたということだ。


 「じつに面白い試みだと思ってな。ローライドには保育園について詳細に報告してもらっていたんだよ」


 にこやかに話すダムド様はやっぱり王様だけあって貫禄も威厳もある。

 それでも、和やかな雰囲気をまとっていると話しやすくしっかり国に住む人々のことを考えてくれているのが伝わる。

 初めて会ってほんのひと時を過ごしているだけだけれど、いい王様なのだと感じた。


 「いい環境だな。子ども達はのびのびと過ごし、互いに見合って過ごすのはいい刺激だ。そしてこの建物も実に良い。子どもを思いやって作られているな。みんな子どもサイズだ」


 すこし、見て過ごしただけだがこの建物の配置や形サイズで子ども用に建てられたものだと分かったようだ。


 「この建物のイメージ図や作るときの設計図は?」


 「それなら、大工のサムが持ってますよ。ここにもハルナが描いた原案図ならありますよ」


 王様の問いに答えたのはライラさんで。その手にはすでに私が最初に書いたこの建物の提案に使われた原案イラストがあった。

 ライラさん、手際良すぎだよ……。


 「これはまた、可愛らしいが分かりやすいな」


 私が描いたのは可愛らしい感じの建物で、見るからに子ども用。

 色もカラフルで、私が好きな感じでイメージのままにこんなのあったら可愛いなで描いたものだ。

 そこかしこに、その名残はあるけれど実際に建てた保育園はもう少し色彩は抑えめで可愛いけど木のぬくもり重視な仕様になっている。

 

 「これも実現したら可愛らしいだろうな。どこかにはこのまま建ててみるかな」


 王様、なかなかですね。にこやかに宣言されて嫌と言えない雰囲気に持ってくのは立場から上手いと思う。

 ここで、嫌と言えたらつわものだね……。


 「ちょっとカラフル過ぎるとは思いますので、そこは控えめのほうが良いかもしれません」


 私のささやかな抵抗も一笑して流してしまう。

 うん、良い性格だわ。一国の主はやっぱり強い、いろんな意味で……。


 「これはこれでいいだろう? 王都の保育園はこれで作ろう」


 一国の一番の首都にこれ作りますか? まぁ、王様が良いって言うならそれでいいですよ。

 もう、止めません……。


 「陛下、確かに可愛らしいですが我が国の塗料は子どもが舐めてしまうといささか危険です。大丈夫な色は限られますので、少し華やかさには欠けるかもしれませんが最大限努力いたしましょう」

 

 ミケーレと呼ばれていたスラリとした体躯の眼鏡イケメンがそう言う。

 どうやら、豹っぽい感じで流し目の美丈夫。

 ちょっと取っつきにくい雰囲気を出しているが陛下には、しっかりとした態度の忠臣といった感じだ。


 「外での遊び場を見学しても?」


 そう声をかけてきたのはダンディなダムド国王に似た容姿だが、それより雰囲気柔らかな好青年だ。

 確か、ランスと呼ばれていた気がする……。

 そんな彼に従っているのは、ミケーレさんより大柄でがっしりとした体躯の虎の雰囲気のディランと呼ばれていた男性だ。


 「はい、それではご案内します。ライラさん、普段遊んでいるところに案内してくるので離れますがお願いします」


 「えぇ、任せて。気を付けてね」


 ライラさんに園のほうを任せて、私はランスさんとディランさんを案内する。


 園舎を出てすぐ先に囲いをした広い広場を作り、そこに私の世界にあった砂場やブランコなどの遊具を作ってもらった。

 これも絵に描いて大工のサムさんや金属加工のできる村の大人たちに作ってもらったものだ。


 園を卒業して学校に行くような年齢になるとやっと人型になる子たちが増えてくるので、そんな子たちが体の動きをスムーズに遊びの中で覚えられるようにと思っての園庭だった。


 「この遊具はなんですか?」


 ランスさんが気になったのは滑り台。

 階段の先に滑るための傾斜の板の形状。初めて見るなら何か分からないものばかりだろうなぁ。

 心なしか、わくわくしている雰囲気を感じる。


 「これは滑り台といって階段を上って斜めの板を座って滑ってくる遊具ですよ」


 わくわくとした瞳が、これは自分も滑れるのかと語っていたので私は勧めてみることにした。


 「一応、大人も大丈夫なので滑ってもいいですよ」


 その言葉に反応して、ランスさんは速足をおさえたような歩きで滑り台にたどり着くと上って滑ってみた。

 初めての滑り台の反応は、初めて滑った時の子ども達と同じできらきらと楽しそうな表情を見せたので、つい微笑ましくなってしまって自然と笑顔になってしまう。


 すると、そんな私に気づいたランスさんはなんだかちょっぴり居心地悪そうにしつつも戻ってきて言った。


 「こんな面白い遊具があるんですね。子ども達も好きでしょう?」


 その問いに私はにこやかに答えた。


 「えぇ、この滑り台とブランコは人気ですよ。順番待ちがやっとみんな上手になりました」


 私の答えに、驚きつつランスさんやディランさんが聞いてきた。


 「順番待ち、出来るのかい? ここの一番小さな子は何歳だったっけ?」


 「一番小さい子はもうすぐ二歳になるリリーちゃんです。お兄ちゃんお姉ちゃんが最初こそ譲ってましたが、最近はリリーちゃんもみんなが滑りたいのを分かってちゃんと順番に並ぶことができるようになりました」


 そう答えると、二人は顔を見合わせて驚いた後に私に聞いた。


 「どうやって順番に並ぶことを教えたんだい?」


 「最初は声を掛けました。お兄ちゃんお姉ちゃんも遊びたいんだよ?リリーちゃんも順番こしようね?って」


 「それで、どうなったんだ?」


 「最初は分かりませんでしたが、リリーちゃんも順番に行儀よく並んで待ってるお兄ちゃんお姉ちゃんを見て順番こを理解してくれて、並んで待つようになったんです」


 こういうのは本人の気づきも大切なのだ。

 身をもって体験して、ルールを学ぶのも集団生活で得られるものである。

 そのためにお手本になれるお兄ちゃんお姉ちゃんが多かったのが、リリーちゃんの気づきの早さにつながったと思う。

 環境は成長過程において大きな要因になるのだ。


 「これは、王都でもぜひ同じ遊具を作って実施しよう。学校に入る前にこんなに成長できる施設は親にも子にもいい影響となるだろう」


 楽しんでいた顔はどこへやら。

 いまのランスさんは真剣そのものだった。ちょっと柔らかさが抜けて精悍になり、不覚にもかっこいいと思ってしまった。

 ダンディなお父さん譲りなのかもしれないな。


 「次期国王ともなると、お父様と共に視察も熱が入りますね」


 私がそう声をかけると、二人は驚いた顔で私を見つめて言った。


 「俺が国王の息子とは話してないよね? どうして気づいたの? 髪や目は色が全然違うのに……」



 そう、ダムド国王はこげ茶の髪に瞳のダンディなおじさまだが目の前のランスさんは金に近い髪色で、瞳も薄い黄色なのだ。

 色素の濃さが違う二人だけれど、共通部分があるのだ。


 「お二人、確かに雰囲気も色も違いますけど耳の形は同じでしたから。親子なのかなぁと思いました」


 私の答えに二人はまじまじと見つめあって、そして首をかしげつつ言った。


 「父と比べないから分からないけれど、そんなにそっくりかな?」


 ランスさんの問いに私は頷いて答える。


 「えぇ、そっくりですよ。今度鏡のある所で上手いこと国王様と並んだ時にでも見てみるといいですよ」


 私はそう答えた。

 そうして、王様と王子様ご一行は保育園をくまなく視察、園児の様子もある程度見て帰っていった。

 嵐のようだったが、この制度がこの国内に広まれば助かるお母さんは増えるだろうことは明らかで、私はここで卵ながらも保育園に挑戦して良かったと感じたのだった。

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