6本目 不知火さまの秘密
ゲームを休憩することにしたわたくしたちは、ティータイム用にすでにレイアウトが整えられていた食堂で紅茶とお菓子を堪能した。
紅茶の質が良いことは大前提として、お菓子の質もかなり高い。出来合いのものではなく、厨房でシェフの方が一から作っているらしい。どこのブランドの味でもないここだけの味を味わうことができた。
とは言っても、わたくしは紅茶やお菓子にそこまで詳しいわけではないので、周りの方々の反応から得られたそれらの情報も込で楽しませてもらったわけだが。
会話の中でブレファンの話もした。九条院さんと不知火さんがゲームを楽しんでくれるかかなり不安だったが、九条院さんは案外気に入ってくれたようだ。不知火さんも嫌そうにはしていないので気に入ってくれたと信じたいところである。
九条院さんは「普段はここまで思いっきり動けないのでスポーツとして楽しい」と話してくれた。武器として使っている棍棒が肌に合ったようで、良かったのやら悪かったのやら。
いや棍棒が肌に合うってお嬢様としては良いのだろうか。わたくしが言えたことではないが。わたくしの肌には銃声と硝煙の香りが合いますわおーっほほほ。
一方の不知火さんも、非日常的な体験には少なくとも楽しみを感じてくれているようであった。
今後、他のVRゲームを紹介する機会があれば、非日常系を体験できるゲームを紹介したいところである。
さて、しばしの談話の後、わたくしたちはまた部屋に戻ってゲームを再開しようという話になった。
「不知火さん、ちょっと良いかしら」
「はい、何でしょう」
解散してみんなで食堂を後にしようというタイミングで、わたくしは不知火さんを呼び止めた。
不知火さんはゲームをやっているときも、先程のティータイムも、やはり時折何か別のことを考えている瞬間があったように感じたのだ。わたくしの気のせいでなければ、eスポーツの話題が出たときに顕著だったように思われる。
もしかすると、実はブレファンをあまり楽しんでくれていないのではと不安になり、こっそり聞き出すために引き止めたわけだ。
「あまりゲームに慣れないのであれば、無理をする必要はございませんわよ?」
「いえ、無理はしておりませんわ」
そして少し話をしてみた。こうして話を聞いてみるとどうも違うようである。ゲーム自体は楽しんでくれていたようだ。
わたくしの質問自体を不快に思っているような様子はないので、詳細を聞き出そうとしていくつか質問してみるのだが、肝心の部分はぼかして教えてくれない。
ただ、話せば話すほど不知火さんの悩み方が思考のドツボにハマっている人の悩み方のように見えて、心配になっていく。
「わたくしたちが不知火さまの問題を解決できるかはわからないですけれど、言って楽になれる話ならいくらでも聞きますわよ。わたくしたちはそれで不快に思うことはありませんし、吐き出して楽になることもあると思いますの」
「そう、ですね。ええと、今はまだあのお二人には内緒にしてくださいますか?」
「不知火さまがお望みならそういたしますわ」
そして、わたくしの説得にようやく重い口を開けた不知火さんだった。
不知火さんは一呼吸置くと、悩み事についてかいつまんで話してくれた。
内容は怒涛の展開でツッコミどころがありすぎた。正直なところ、相槌を打つだけで限界だった。
どこからツッコめば良かったのだろう。「私、プロゲーマーなのですけれども」からだろうか。それとも「この間の
もちろん、ツッコみを入れて茶化すような場面ではないことは理解しているし、隠し事を打ち明けてくれたのは素直に嬉しい。
けれども、内容が想像の斜め上の遥か後方に刺さったため、思考が追いつかなくなってしまったのだ。
「つまり不知火さまは
「はい」
「eモータースポーツを中心として活動をしていて」
「ええ」
「最近パフォーマンスが落ちていてスランプ気味と」
「そういうことになりますね」
なるほど言いたいことはわかった。わかったが、若干飲み込めていないわたくしがいる。
もしも本当にプロゲーマーだとして実際にパフォーマンスが落ちてきていると言うのであれば、それは死活問題だろう。
プロゲーマーの多くは収入源をゲームに絞っているのだが、一度ゲーミングチームから見放されてしまえば、次のチームに所属したり別の収入源を見つけたりするまで、生活をしていくために必要な収入が得られなくなってしまう可能性があるのだ。
不知火さんほどの家になれば働く必要など無いのかもしれないが、何もしないというのは居心地が悪いだろう。そもそも、ゲーマーがゲームのことで悩んでいると言っているのだ。
収入だとか現実的な話は無しで、ここはゲーマーの
そのためにも確認したいことがあった。
「不知火さまがメインでプレイしているスポーツゲームはアスレチックeスポーツゲームですか」
「ええと、一応そうですけれども」
アスレチックeスポーツゲーム、すなわち余計な身体的補助無しで人間の肉体をベースとして挑戦するゲームのことであれば、わたくしのメイン戦場だ。アドバイスできることがあるかもしれない。
「最近、ゲームを楽しんでおりますか?」
「どうでしょうか。最近ですと、記録を伸ばすことやテクニックを磨くことをよく考えている気がします」
「もしかするとそれが原因かもしれませんわね」
「どういうことですの?」
「アスレチックeスポーツゲームの特徴を十分に生かせていないのかもしれません」
納得半分、困惑半分な表情を見せている不知火さんに対し、わたくしは自信満々に告げた。
「ここはわたくしにお任せくださいませ!」
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