5本目 部長



 わたくしたちは、まず四人で顔を合わせてすぐにゲーム内自己紹介をした。

 まずわたくし夕凪みみこ、こと『むむこ』が遠距離担当、成瀬四季乃さんこと『しっきー』さんが近距離担当ということをざっくり伝えたあと、同じように残りのお二人に職業やゲーム内ネームなどの説明を促した。

 不知火しらぬい夜空よぞらさんことゲーム内ネーム『不夜ふや』さんの職業は魔法使いで、最初に選択した武器は長杖とのことである。わたくしと同じく遠距離型だ。

 一方の九条院くじょういん華子はなこさんことゲーム内ネーム『ナイン・フラワー』さんの職業は旅人で、武器は棍棒らしい。棍棒という武器種があることを今の今まで知らなかったのだが、それ以上に九条院さんが棍棒を選択したことに驚いた。なぜ棍棒……。


「それとですね、このゲームでは七色龍と呼ばれる存在の力を借りて戦います」

「チュートリアルでも少しお会いしましたわね」


 ナイン・フラワーさんが答えてくれる。飲み込みが早いようだ。


「おそらくその子ですわね。わたくしとしっきーさんの七色龍は補助系なのですが、お二人の七色龍はどのような系統かわかっておりますか?」

「わたくしの七色龍はこの子ですわ」


 そう言ってナイン・フラワーさんが見せてくれたのは可愛らしい小鳥だ。見た目はインコのようだが、淡い茶色の羽毛が違和感を誘発してくる。


「ギルド職員のベルさまという方のお話ではバフをかけてくれるとのことでしたわね。バフが何なのかはわたくしよくわかっておりませんが」

「バフは攻撃力や防御力を、スキルの力などで底上げすることですわ」


 すかさず説明を入れてくれたのはしっきーさんだ。ナイン・フラワーさんの七色龍も補助系のようである。色が近いことから、しっきーさんの七色龍――焦げ茶のリス風の子だ――と系統が似通っている可能性が高そうである。


「不知火さんはどうかしら」

「ちょっとお待ちください。今出しますわ。ええと」


 不知火さんが空中に向かって操作をする。おそらくは七色龍用のインベントリを操作しているのだろう。


「出せましたわ。こちらの子です」


 空中に現れた召喚陣からまず出てきたのは太い四足、そして力強く伸びる尾。やがてあらわになった羽と、ゴツゴツとした体表をもつその姿は、まさに『ドラゴン』と呼ぶのにふさわしい姿をしていた。もっと言えば、欧米風の『ドレイク』と言うのが正しいかもしれない。

 ただ、その色が明るい空色であるという点と、手で抱えられるようなミニチュアサイズであることがわたくしの思い浮かべるドラゴンのイメージから離れていた。ドラゴンと言えば、とても巨大で、赤や緑、あるいは黒といったカラーリングのイメージがあるのはわたくしだけではないはずだ。


「その、ベルさまから言われたのは珍しい騎乗型の七色龍だと」

「騎乗型!? 近くで見たのは初めてですわ! こんなに小さくてどうやって乗るんですの!?」


 突然テンションが上がったのがしっきーさんだ。このゲームのオタクらしいと言えばオタクらしいが、その剣幕には若干ナイン・フラワーさんも不夜さんも引いているように見える。微苦笑である。

 それでも不夜さんは詳しく説明してくれた。ほとんどベルさんからの受け売りらしい。


 不夜さんの説明をつまむと、騎乗型の七色龍はスキルによって大型化できるらしい。

 すでにこの時点でスキル枠を一つ消費してしまう。移動手段の拡張や戦闘方法の多様化というメリットに対して、スキル枠の消費がデメリットになっているのだろう。

 加えて、騎乗時に振り落とされないために風などを防ぐスキルがあると言う。


「最低限この二つのスキルを使わないと普通は乗ることすらできない、とベルさまには言われましたわ」


 しかもその二つは、制限時間つきでそこそこ長めのクールタイムもあるスキルだと言う。

 長時間の戦闘では乗りっぱなしで戦うというわけにはいかないらしい。フィールド探索でも、常に発動して索敵したり、長距離の移動手段にしたりはできないような仕様になっているわけだ。使いどころを慎重に選択する必要がある。騎乗型の七色龍に対する憧れはあったが、これは思っていたより不便かもしれない。


「承知いたしましたわ。お二人ともご紹介ありがとうございます。早速ですけれど、冒険に行ってみましょうか!」


 なにはともあれまずは冒険だ。戦闘を経験してみないことには何もわからないだろう。


 わたくしたちは、西の草原フィールドについて軽く情報共有をしたあと、早速モンスターを狩りに行くことにした。

 これから向かう西の草原フィールドは一番初心者向けと言われているフィールドだ。街道沿いにしばらく歩くとエリアボスのフィールドへとたどり着くが、今回はそんなに奥まで行くつもりはない。


「まずはその辺りにいる野ウサギを屠殺とさつしますわよ」


 まずは初心者向けのウサギ型モンスターを相手にする。ウサギというにはいささか大きすぎるサイズ感で、大きい個体は背丈が人ほどもある。

 また、現実のウサギに対するすばしっこいという印象とは異なった生態を見せる。かなり鈍足で動きがゆっくりしているのだ。

 プレイヤーたちは野ウサギとか野ウサギ部長とか、そういった呼び方しかしなくなってしまっているが、確かそこそこかっこいい名前が付けられていたはずである。わたくしも忘れたが。

 ブサカワ系の顔つきが『部長』と呼ばれ始めた理由なのだろうが、言われれば言われるほど『部長』という感じがしてくるのが不思議だ。可愛い系ではないので攻撃しやすくて助かっていると言えば助かっているだろう。


「攻撃自体は避けやすい攻撃しかしてきませんのよ。大きくて怖いかもしれませんが、武器の練習のためにタコ殴りにするのには適しておりますの」

「そ、そうですのね」


 ナイン・フラワーさんは最初戸惑っていたようだったが、すぐに決心がついたのか棍棒で野ウサギ部長をバキボキ叩き始めた。ダメージエフェクトを見るにそこそこのダメージが出ているようだ。


「不夜さんはどうですか?」

「この子に乗ること自体は簡単なのですが、乗ったまま魔法を狙い撃つのは少し難しいですわね」


 そう言いながらも、空を飛ぶ七色龍を華麗に乗りこなし、数発に一発は魔法をしっかりと当てているのが不夜さんだ。早くも自分の七色龍の特性を理解しているようだ。


 野ウサギ部長からすると空中に対する攻撃手段が無いので、不夜さんの一方的な攻撃になっている。悲鳴を上げながら同じ場所をくるくると走り回り続ける野ウサギ部長がちょっとだけかわいそうである。


「あ、向こうから来てますわよ」


 しっきーさんからの知らせが聞こえる。


「了解ですわ。はいはいチュドンッと」


 しっきーさんが索敵をして野ウサギ部長以外の少し強力なモンスターが近づいてきているのを見つけたら、わたくしに知らせる。そのモンスターをわたくしが遠距離で撃ち抜いて処理をする。という手順で、わたくしたちの周囲の安全を確保していた。

 即興の訓練場の完成である。訓練場とは異なり、経験値もアイテムも稼げて二重に効率が良い。


 わたくしは周りのモンスター処理に魔法銃を使っていたが、これでわたくしがみみこであるとすぐに特定できるプレイヤーはそういないだろう。わたくしたちのあとから第二のエリアに進出してきた攻略組や検証班の活躍で、魔法銃などの上級武器を手に入れる方法が確立されたのだ。

 わたくしたちがエリアボスの撃破で派手に魔法銃やカタナを使ってしまったので、今は魔法銃とカタナがブームになっているらしい。目立たなくなってありがたい限りだ。

 だから、せいぜい遠くからだと初心者育成に乗り出している攻略組という様子にしか見えないはずである。



「慣れてきたら次のモンスター退治に行きますわよー!」


 二人に声をかけたのはしっきーさんだ。好きなゲームを友人たちと一緒に遊べるのが嬉しいのか気合が入っている。


「その前に休憩いたしましょうか」

「あ、そうですわね。失礼いたしましたわ」


 はやる気持ちはわかるが、初心者二人はVRゲームもあまりやったことがないはずである。ちょくちょく休憩を挟むのが良いだろう。


 九条院家の執事さんがおやつの準備をしておくと言っていたので、キリの良いところで一旦切り上げてティータイムと洒落込みたいところである。



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