12本目 END




 終わりを告げるものは、ときに拍子抜けだ。


「あ、リザルトディスプレイですわね」


 空中に表示されたディスプレイに映る「Congratuコングラッチュlationsレーションズ!」の文字列と報酬の一覧だけが、激しかった戦闘の終わりを示していた。


「オークも消えていくね」


 赤い霧となって宙に消えていくオークを、ノルセさんや配信視聴者と見送る。

 これが日本サーバーで最初のクリア。おそらく、世界中でも最初の討伐だろう。


 オーク討伐の鍵は、強力な範囲魔法への対策と強化後の部位破壊だったと言える。

 未だに見つかっていないが、魔法対策には何か方法があるのだろう。


 あるいはもう見つかってはいるのかもしれない。

 攻略組に近いところでボス戦も配信してしまうようなプレイヤーは、ノルセさんが知る限りは彼女自身しかいないとのことなので、他の攻略組は攻略レースに勝つための隠し玉として何か持っていてもおかしくないはずだ。だから、衝撃波対策ができているパーティーはあるに違いない。

 そうなってくるとやはり強化後のオークの攻撃をさばくのが難しいのだろう。DPSでゴリ押しをするか、全員で的確に部位破壊を狙う必要がある。

 もしくは、オークの激しい攻撃を、パーティメンバー全員が卓越したプレイヤースキルですべて避けてしまうか。こちらは発売して少ししか経っていない現状は現実的ではないだろう。


「人数の多さによる連携の難しさから、部位破壊に持ち込めるほど攻撃が集中できなかった、と言ったところかしら」

「ん、なにが?」

「これまで攻略できていなかった理由ですわ」

「あー、たしかに一点集中で攻撃するの難しいもんね」


 悪質な攻略組が執拗にノルセさんに絡んでいたのも、これが理由だろう。

 DPS特化かつ一点集中型、しかも被弾を最低限に立ち回れるとなれば、回避型のタンク兼アタッカーとして期待してしまうのもわからなくはない。

 だからと言って、嫌がる彼女に詰め寄っていた連中を許すつもりはないが。


「ねえ見て! 報酬の下の方にファースト討伐の称号と、次のエリアの開放ってあるよ!」


 暗い思考に沈みそうになっていたわたくしを、ノルセさんの無邪気な声が引き戻してくれた。わたくしもリザルト画面をスクロールしてチェックする。


「あら、本当ですわね! 次エリアでは転職できるのでしょうか?」

「できるといいね! 僕も早くサムライとかそんな感じになりたいや」

「そう言えばカタナも上級武器なのでしたっけ?」

「そうだよ。だから基本職だと威力が制限されてるんだ。と言っても初期エリアで作れる最高の武器くらいの強さは発揮できるけどね」

「わたくしの魔法銃も同じですわね。早く本領発揮と行きたいですわ!」


 転職への希望や、新たな出会い、新たな敵への期待、それと戦闘勝利の余韻が混ざり合って、複雑で心地良い高揚感に誘われる。


「前々からの情報だと、第ニエリアはここから更に西に行ったところにあるらしいね」

「どういたしましょうか。……行っちゃいませんこと?」

「あはは、同じこと考えてたよ。このまま行っちゃおうか!」


 リザルトの詳しい確認はまたあとだ。今は冒険に出よう。これはきっとそういうRPGなのだから。




++++ ++++



「今日は濃い一日でしたわね」


 朝から長時間のエイム練習、ノルセさんとの出会い、エリアボス戦、新たなエリアへの到達と、一日中ブレファン三昧だった。


 首元に装着していた体感型VRデバイスを外し、軽く配信の反響をチェックする。

 さすが日本が誇る大作ゲームだ。日本だけで無く世界中のブレファンプレイヤーの注目もあり、ここ最近では一番の伸びを記録していた。

 配信アーカイブの伸びも良い。SNSで話題になっている言葉をまとめたトレンドの一覧にも「エリアボス」の文字が載っていたので、そちらから調べて流れてきた視聴者も多いのだろう。


「アーカイブを編集して早く何本か動画にしたいですわね」


 時刻は午後十時。夏休みなので少し夜ふかしをするとして、今日のうちに一本は上げたいところだ。

 動画を分けるとしたら、新スキル取得からエイム練習まで、揉め事からボス戦の流れ、ボス戦本編、第ニエリアへの道筋という感じだろうか。

 揉め事の部分はノルセさんから動画化の許可を取ったので、ありがたくまとめさせてもらう。コラボに至った経緯が気になっている人は多いだろうし。


 喋っていることを文字起こしするボイスフォローや、画面に表示するテロップ、いくつかの効果などはテンプレート化して楽に編集できるようにはしてあるものの、構成を考えて実際にカット編集して、文字を付けていくといった手順には時間がかかる。ある程度はAIに任せているとは言っても、やっぱり大事なところは自分の手で調整したい。

 今回のように配信が長く、内容が濃ければなおさらだ。


「編集者を雇いたいレベルですわね」


 一流のMineTuberなら動画編集担当の人を雇ってその人に編集を任せてしまうことが多々ある。むしろそうしていない人の方が今ではまれだ。

 しかし、優秀な動画編集ができる人というのは相応に報酬も高くなる。編集者の腕やセンスでせっかく撮った動画の面白さが変わってしまうのだから、より優秀な編集者を雇いたくなるのは当たり前で、有名編集者などはかなりお金をかけて雇わなければいけないとのことだ。

 最近だと、MineTuberではなく編集者で動画を追うような人もいると聞く。そう聞くと生半可な編集者を雇うわけにもいかなくなってくる。


 そうするとどうなるか。編集者を雇うことで、MineTuberひとすじでご飯を食べることがさらに遠のくというわけである。


「今後は遊びに集中……間違えました、配信業に集中したいですし、編集者に関しては要検討ということで。そう言えばノルセさんはどうしているのかしら?」


 まさかのタイミングでできた配信者仲間のノルセさんに早速質問してみる。

 返信が来るまでは動画編集タイムだ。ツールを使ってコメントが多かった部分を確認し、めぼしい部分を見どころとしてピックアップしておく。全体構成を考えて見どころを配置し、見どころと見どころの間の経緯や背景情報を補完していく。




 そうしてできた動画は二本。揉め事の部分から戦闘開始までの動画と、実際のエリアボス戦の動画だ。多くの人が求めていそうなところから動画を作ろうと思ったが、正直ボス戦も、経緯も、第ニエリアのことも求められている気がするので結構悩んだ。

 結局、時系列順ということで第ニエリアの動画はこの次に投稿することにした。また、スキルを取得した部分やエイム練習の部分は番外編ということで別の機会に投稿する予定だ。


 MineTubeにアップロードし、最終確認をしながらサムネイルを作る。

 音量やエンコードの問題はなし。サムネもいい感じのものが完成。

 ということで公開だ。まずは戦闘前の揉め事から戦闘突入までの動画を公開する。

 戦闘本編はノルセさんと動画投稿タイミングを合わせるということになったので、明日の昼に公開予約を入れた。


 動画を投稿したということと、次回動画を出す時間をSNSで話しておく。

 SNSの共有の伸び率が凄まじい。それだけ注目されていたということだろう。嬉しい限りだ。


 しばらく今回の配信に関する反響をSNSなどで漁って楽しんだわたくしは、一通り満足したのでパソコンをシャットダウンしてベッドへと潜り込んだ。


「今日はもう寝ましょう。明日の予定は何かあったかしら」


 スマートデバイスでスケジュールアプリを開く。そこでわたくしはようやく気づいた。


「来週はお泊まり会ですわね。ブレファンが濃すぎてすっかり忘れていましたわ」


 さて、ここで問題が一つ。


「現実のノルセさん……成瀬さんと、どんな顔をして会おうかしら?」





Playlist03 わたくし、夏休みをエンジョイいたしますの ~交差する二人編~ 終


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