5本目 魔法銃




 前回の蛇を倒した配信の翌日。わたくしはイースト・セントラルに戻ってきていた。無論、手に入れたクリスタルから武器を作るためだ。


「みみこお嬢様! これ! 銃が作れますよ!」

「ちょっ、近いですわよ。詰め寄ってこないでくださいまし!」


 ゲーム内で知り合った生産職のフレンド、『カナちゃん』さんにクリスタルを渡すと、しばらく何やら作業をしたあと急にテンションを上げて詰め寄ってきた。びっくりするのでやめてほしい。


「あの、よくわからなかったのであなたに見てもらえばなんとかなると思ったのですけれど、大丈夫でして?」

「問題なしです! クリスタルから武器を作る際は作りたい武器に対応する職業スキルが必要なんですけど、どうやら銃の作成は私の持っているスキルで問題ないみたいです!」


 普段からテンションが高めな彼女が、いつも以上にテンションが高い。


 わたくしも銃と聞いて飛び上がりたい気持ちだったが、彼女のテンションの上がりようを見たことで一周回って冷静になってしまった。


「で、その銃はどんな銃ですの?」

「魔法銃というものが作れるみたいです。魔力を消費して魔法弾と呼ばれる弾を装填し、それを撃ち出す武器みたいですね。三種類あるのですが、銃のことはよくわからないのでちょっとこれ見てもらえますか」


 そう言われて見せてもらったディスプレイには、三種類の魔法銃の名前とその概要が書かれていた。


「魔法ライフル、魔法サブマシンガン、魔法ショットガンですか。それぞれの交戦距離レンジは、遠・中距離、中・近距離、近距離と。それにしても命名が随分現代的で雑ですわね。いいんですかそれで、Braveブレイブ Fantasyファンタジーさん……」


 コメント欄をちらっと見ると、『たまにこういうふざけ方するんだよね』とか『ブレファンっぽくなってきたな』とか、なんだか気にかかるコメントが流れていくのが見える。


「え、これがブレファンのノリですの!?」


 わたくしはブレファンシリーズをプレイしたことが無いので知らなかった。知っていたのはおしゃれなサブタイトルと、国民的正統派ファンタジーRPGだという評判だけである。

 ……いやいや、これのどこが正統派ファンタジーRPGなのだろうか。わたくしには正統派ファンタジーが何もわからなくなってしまった。


「で、どうですかみみこさん。どの武器を作りますか?」

「ああ、申し訳ございませんカナちゃんさま」

「カナちゃんでいいんですよ!」

「もうこれは癖でして……」

「むむ、わかりました。でも、さま呼びはむず痒いのでせめてさん付けにしてください!」

「承知いたしましたわ」


 お嬢様をやっているうちに自然と口から出るときはさまを付けるようになっていたが、カナちゃんさんのようにさま付けで呼ばれることが苦手という人もそれなりにいるのだろう。VRMMOをプレイするにあたり、これからは気をつけようと思う。

 まあ胸の中ではいつもさん呼びなので、これをそのまま口に出せるようにすればいいはずだ。意識すればすぐできるようになるだろう。


「さて、わたくしからすると魔法ライフル以外の選択肢は無いですわね。スナイパーライフルが無いのは残念ですが」

「魔法ライフルですね。わかりました! クリスタル以外にも素材が必要なのですが、災厄蛇をソロで倒されたのであればすべて揃っていると思います。一応こちら確認お願いします!」


 そう言ってカナちゃんさんが見せてくれたのは、取引申請画面だ。素材の一覧と依頼料、そして引き渡す武器とその期限が書いてある。

 これはプレイヤー同士を仲介してくれる便利な取引システムだ。期限までに依頼物が引き渡される状態になっていない場合、依頼料と素材が依頼主へ返却されるようになっている。もし素材がすでに消費されていたなら、依頼を受けた人に相応の罰金が課され、依頼主には素材の代わりにお金が返却される仕組みである。


 これにより、依頼主からしたら依頼でレア素材を騙し取られるなんてことは起きなくなるし、依頼を受ける側としても依頼品を用意したのにお金を払ってもらえないということが無くなるのだ。


「素材は問題なさそうですわ。災厄蛇ではなく黒蛇の魔法ライフルという名前になるんですのね」

「そうみたいですね! 私の知っている限りでは災厄蛇のクリスタルから作られる武器はすべて『黒蛇の』と付いてます」


 どうやらシリーズ物の武器のようだ。ゲームが進んでいけば一人で全種類コンプリートなんてことをし始める人も現れるのだろうが、ソロプレイの難易度の高さからするとそれまでにはまだ時間がかかりそうだ。


「それでは黒蛇の魔法ライフルで依頼を設定しました。こちらでよろしければ確認ボタンを押しちゃってください!」

「はい、問題ないですわ」


 取引成立である。わたくしの所持しているお金とアイテムが自動で回収され、カナちゃんさんに受け渡される。


「はい! 承りました! 一応期限は半日で設定しましたが、私の好奇心がもたないので一時間後にはできあがっていると思います。完成したらフレンドチャットしますので手が空いたときに取りに来てください!」

「ありがとう存じますわ。それでしたらわたくしはエリアボスの情報でも集めてきますわ」

「わかりました!」


 魔法ライフルの完成を待っている間、わたくしはエリアボスについての情報を集めつつ、ストーリーを進めることにした。


「視聴者の皆さま、エリアボスにはそもそもどうやって挑むか教えていただけます?」


 なによりもまずは、エリアボスに挑む方法を知る必要がある。もう発売から一週間以上経っていることもあって、最前線の情報を知っている視聴者もそれなりにいるようだ。答えはすぐにわかった。


「ギルド本社に行って受付で西の草原の異変についての話を聞く、と。わかりましたわ。じゃあ早速向かいましょう」


 善は急げだ。カナちゃんさんの露店がある通りを抜けて、ギルド本社へと足を進める。


 イースト・セントラルはとても広い街だが、要所にワープ用のポータルがあり街中を自由に移動できる。

 わたくしが今いるのはプレイヤーの露店が多く並ぶエリアのうちの一つである。ここは複数人での活動をしていない野良の生産職プレイヤーが多く集まるエリアだ。玉石混交な品揃えには、フリーマーケットを見回るようなわくわくした気持ちを抱く。


 カナちゃんさんはこの玉石混交なエリアの中でも、特に玉の方のプレイヤーだと思われる。売っている品物の性能が高いことは言わずもがなで、最前線一歩手前のボス素材をさらっと迷うこと無く扱えていることからも、優秀な生産職だということが伺える。彼女と知り合えたことに感謝しなくては。


「ポータルが見えてきましたわね」


 そんなこんなで視聴者のコメントを拾って雑談をしつつ歩いていると、ようやく目的地の広場に到着した。広場の中央に目的のポータルは鎮座している。

 すぐにポータルに触れ、現れたディスプレイから目的地を選択する。


「ギルド本社前広場、と」


 足元が光ったかと思えば一瞬視界にもやがかかり、すぐに晴れる。気づいたときにはギルド本社近くの広場にあるポータルへと転移できていた。


「ほんと便利ですわねこれ。セカンドエリアの街にたどり着いたらそこともポータルでつながるのかしら」


 できれば街中だけでなく街と街の転移もできるようにしてほしい。VRゲームの移動は結構面倒なのだ。VRでは無いRPGゲームをプレイしたときに、ボタンを押すだけで移動できることがいかに楽かと驚いたほどである。




 さて、ギルド本社へ向かうぞというタイミングで広場の一部が騒がしいことに気づいた。

 揉め事のようである。いつもだったら関わらないようにスルーするのだが、聞き覚えのある気がする女性の声が耳に入ったので、妙に気になってしまった。


「何かあったのかしら?」


 わたくしは近づいてみることにした。配信中なのでできればトラブルに巻き込まれたくないが、遠くから見る分には問題ないだろう。


『なんだなんだ』

『お嬢様行ってみようぜ』

『私気になります!』


視聴者たちも気になっているようですしね。


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