VRゲーマーお嬢様はeスポーツ動画配信でご飯が食べたい
五月晴くく
Season01 わたくし、ちょっと有名なゲーム配信者ですの
1本目 わたくしの日常
「次回の配信は明日の夜を予定しておりますわ。ぜひ通知を入れて待っていてくださいませ。ではごきげんよう!」
わたくし
少々の余韻を堪能したあと、体感型VRデバイスを解除する。VR空間から部屋へと戻ってくる視界。椅子にもたれかかり、ふう、と一息つく。デバイスを机に置き、私は机にあった水のペットボトルを持って残りを一気に流し込んだ。ぬるくなってしまった水とは言え、喋り疲れて乾いた喉にはよく染みる。
「今日も楽しかったですわね。ランクもあと少しでダイヤモンドランクですし、今週末はダイヤモンドランクになるまでの耐久配信でもしましょうか」
配信とゲームによるほどよい疲れを感じる。本当はもう少しゲームをやっていたい気持ちがあるが、そうも言っていられない。配信者は配信の裏で様々な準備をしなくてはならないのだ。
明日やるゲームの配信用サムネイルづくりに、SNSへの宣伝投稿の準備、それからこれからしばらく分のスケジュールチェック。
そうこうしているうちにエンドロールが一分ほど流れたので、ほどよいタイミングでパソコンの方から配信終了のボタンを押す。そして、諸々の準備を始めようと、画像編集ソフトとスケジュール管理をしているカレンダーアプリを開いたところでふと思い出す。
「先にゴミ出しにでも行きましょう」
わたくしの住んでいる集合住宅は、24時間ゴミ出しができるゴミ収集ボックスが1階に置いてある。だからいつゴミ出しをしても良いのだが、忘れないように曜日を固定して出すようにしている。月曜日と木曜日の夜に出すようにしていて、今日はその月曜日である。
ゴミ箱からゴミ袋を取り出し、部屋を見渡して捨て忘れがないかを確認する。キッチン付きワンルームの部屋は見通しが良く、一瞬で部屋全体を見ることができた。部屋を見渡してもゴミ箱に入れ忘れたゴミは特になさそうなので、そのまま手に持ったゴミ袋をきつくしばる。一応軽く戸締まりを確認して、わたくしはゴミ捨て場へと向かった。
++++ ++++
ゴミ出しを終えて部屋に戻ってきたわたくしは、流れるように手を洗い、流れるようにパソコンと体感型VRデバイスのセット一式が置いてあるデスクへと帰る。ここがわたくしの定位置である。仕事場と遊び場と休憩所が、このデスクという一箇所に集まっているので空間効率が良い。
さて、遅ればせながら自己紹介をしてみよう。わたくし夕凪みみこは、全国のお嬢様、お坊ちゃまが通う名門校である私立白薔薇学園の大学部に在籍している。けれども、実のところわたくしはお嬢様というわけではない。お嬢様っぽく見えるように周りに合わせているうちに、お嬢様のような振る舞いを身に着けたただの一般人である、多分。
……多分というのも、実は両親の仕事を詳しく知らないのだ。ただ、両親の金銭感覚も、生活のレベルも、住んでいた家も、ごくごく一般の家庭と言う他表現のしようがなかった。それに、同級生のご両親たちから感じるような高貴なオーラを自分の両親から感じるということも無かったので、うちがお金持ちだとか名門の血筋だとかいうことはないはずである。
もう気づけば親元離れて1年と少し、一人暮らしにもだいぶ慣れてきた。そして配信を始めてからはもう3年にもなる。わたくしももういっぱしの配信者で、ついこの間メインで利用している
ところで配信者がなぜ配信をするのかをご存知だろうか。三大配信理由というものがある(わたくし調べ)。一つは配信やゲームが好きだから、一つは有名になりたいから、そしてそれらに並ぶ三大配信理由の最後の一つが――
「お金がほしいからなのですわ!」
大学通いの間のわたくしの一人暮らし費用や学費は両親が負担してくれている。ただ、大学を卒業した後はわたくし自身で生活費を稼がなくてはいけない。しかし、しかしだ。わたくしは働きたくない。もう一度言おう。働きたくないのである。
「わたくしたち配信者の
――デデーン!
わたくしが漫画のキャラクターなら太字の効果音とともに集中線が描かれていそうな勢いで叫んでしまった。いけないいけない。配信後で気持ちが高ぶっている。もう時間は夜なのだし、壁が厚い物件を選んだとは言えできるだけ叫ぶのは控えなくては。
まあとどのつまり、わたくしは配信だけで食べていきたいのだ。大好きなゲームと、それなりに好きな配信で生きていく。そのためにわたくしは学業に加えて本気でこの活動をしているし、本気でゲームを楽しんでいるのだ。わたくし自身が楽しめないと、きっと視聴者も楽しんでくれないから。
「さてと、SNSにお礼の文章を投稿しましょうか。『今日は配信に来てくださりありがとうございました、ソロプレイでプラチナランクの1まで行けましたし、このままダイヤモンド、いえスターダストランクを目指しますわ』っと」
わたくしがよくプレイしているVRFPSゲーム、
「最上位のスターダストランクともなれば全プレイヤーの内上位0.02%程度しかいないという狭き門らしいですわね」
ランクはシーズンと呼ばれる3ヶ月程度の区切りでリセットされ、シーズン終わりにはそのシーズンのランクに応じたゲーム内アイテムがもらえることになっている。ゲーム内アイテムと言ってもゲームを有利に進められるようなものではなくて、見た目を変更できるだけのものだ。
「でもでもでも、上のランクのアイテムほど凝った意匠になっていてかっこいいんですの。手に入れるしかないですわよね?」
わたくしは現在プラチナランクの1である。あと少しでダイヤモンドランクへと手が届く。まだ上にはダイヤモンドランクの4から1とスターダストランクがあるわけで、世界トッププレイヤーまでは程遠い。とは言え、今シーズンはまだ始まって数週間ほどしか経っていない。前のシーズンの最高ランクであるダイヤモンド3を越せるように、今シーズンも頑張りたいところだ。そして目指せ0.02%の狭き門。
「ちなみにダイヤモンドランクは全プレイヤーの上位1%程度ですので、ダイヤモンドでも十分すごいのですわよ」
誰にともなく自慢してみる。そう、わたくしは結構うまいほうなのだ。実力派配信者なのである。本当ですのよ?
さてさて、そろそろ作業の続きをしてさっさと寝よう。夜ふかしはお肌の大敵である。お嬢様ではなくとも、お嬢様キャラを守っていくためにわたくしは自分磨きを怠らないのである。真のお嬢様とは、生まれではなくその心で決まるのだ。なんて。
あ、そういえばゲーム販売サイトのサマーセールは明日からだっただろうか。SNSでフォロワーのみんなにセールでオススメのゲームを聞いてみよう。ゲームを発掘するのは楽しいし、配信のネタにもなるし、一石二鳥である。
そんなこんなでSNSに興じたり、ゲームについて調べたりしているうちに若干夜ふかし気味になってしまったのは、たまのご愛嬌ということにしておいてほしい。
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