第1295話 どうやらそういう事らしいです。的なお話

婚約……婚約、こんはく、こんにゃく?

こんにゃくってなんだっけ?

確かこんにゃくの原料ってそのままだと毒なんだったっけ?

じゃなくて、本厄?

前厄ってなんだっけ?

本厄ってなんだっけ?

いやいや、婚約の話だよな?

混乱するな、俺。

というかそもそもなんで俺なのさ?

英雄役ではあるけど、あくまでも今回の封竜祭における英雄役であって英雄本人じゃないんだよ?

そんな微妙な奴となんでわざわざ婚約なんてしようとするのさ?

理解出来ないよ。

それだけじゃなくて、ユキノが俺を好き?

そんな素振りもないし、そういう風に見るように仕向けた覚えもない。

本当になんでこんな事になってるの?

訳が分からないよ。


「とはいえ、周りがとやかく言うだけが婚約ではありませんし、レントさんの意見も聞きたいですね。どうですか、レントさん。斬葉と、娘と婚約をしてもらえませんか?」


キリカさんが聞いてくるが、なんて答えればいいんだ?

なんだかんだ言っても相手は三等大名。

グラキアリスならば伯爵か辺境伯に相当する高位の大名。

そんな相手が申し込んでくる婚約なんて断っていいのか?

いやそれ以前に断れるのか?

そもそもなんで俺?

英雄役なんて過去に何人もいただろ?

俺なんか全然特別じゃないよ?

だめだ。

思考がループする。

どうすればいいんだ?

分からない、分からないよ。


「落ち着け。」

「へぷっ。」


いつの間にか目の前にいたユキノが俺の両頬を手で包むようにして顔を覗き込んでくる。


「私が言うことでもないかもしれないが、戸惑うのも分かる。色々と考えてしまうのも分かる。だがな、今はそれらは全て意識の外に置いておけ。ゆっくり、時間がかかってもいい。今は自分がどうしたいのか、それだけを答えてくれればそれでいいんだ。ああ、私の事は気にしなくていい。私はもうどうするかを決めているのでな。レントがどうしようと関係ない。必ずお前に、私の事を認めさせてやるさ。」


なんだろう?

なんか、ユキノが急にイケメンに見えてきた。

やばい、抱いて!

……じゃないから!

ふざけてる場合じゃないから!


……ふぅ。

とはいえ、ゆっくりでいいというのは助かる。

今はとにかく落ち着く事が大事だ。

それから自分の考えをまとめて、そして伝えればいいんだ。


「俺は……やっぱり当人達の意思を無視した婚約話は、受け入れられません。俺が貴族とか、大名とか、そういう家の出身じゃないからかもしれませんが、こういうのは本当に大事だと思うから。だから、自分の意志と覚悟と想いでもって決めるべきだと思います。今好きだと言われてもそういう風に見れません。でもそれは今後どうなるかは分からないです。接していく内に好きになるかもしれませんから。でも、婚約しろと上から言われるのであれば、それは絶対に受け入れる事はしません。」

「そう。その意志は絶対に変わらないのかしら? 相手が国王や、帝であっても。」

「よっぽどの事がない限りは。」


うん……そうだね。

青臭いと言われるかもしれないし、綺麗事だと言われるかもしれない。

でも、俺は出来る限り個人の価値観とか想いとか、そういうのを大事にしたい。

俺がハーレムを築いているからかもしれないけど、せめて想いに対してだけは常に誠実で居たいと思うのかもしれない。


「分かりました。無理に言ったところで逆に反感を買ってしまいそうですし、婚約うんぬんは無かった事にしましょう。少なくとも今は。今後どうなるかは分かりませんけどね。何せ、斬葉ちゃんの最近の話題はレントさんの事ばかりですからね。うふふ。」

「お母様! 私はそんなにレントさんの事ばかり話してませんよ!?」

「そんな事ありませーん。ヒサギさんとアルフレッドさんの話題を足してもレントさんの話題の量には満たないでーす。」


あれ?

なんか、急にキリカさんの雰囲気が……。

あれぇー!?


「どうやら凌げたようだな。」

「あの、これって一体……?」

「キリカさんは基本的には気の良い人なんだよ。ただ、大名としての顔もあるというだけでな。」

「だとしても、そうあれるというだけで怖いんですけど。」

「フッ……確かにな。」


なんかよく分からないけど、どうやらそういう事らしいです。

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