第1277話 絶対に認めるわけにはいかない。的なお話

互いに木剣を持って対峙する。

試合開始の合図はセフィアが担当する。


「それでは……始め!」


合図と同時にリリンが突撃してくる。


「いきなりか!」


それなりに離れていたはずなのに気付けばリリンは目の前にいる。

やっぱ速いな!

ここの所ずっと演舞の練習ばかりして遅い動きばかり見てきたからこうも速いと何とか対応するだけで精一杯だ。

上段一発、それを受け止めたと思った時にはすでにリリンは俺の後方に跳んで目の前にはいない。

慌てて振り返ると再びリリンが迫ってる。


「ちぃっ!」


受け止めると再びリリンはいつの間にか遠くにいる。

攻撃自体はそこまで重くない。

だが、この速さは如何ともし難い。

こっちが防戦一方だがリリンは積極的に攻めてくる事はなくヒットアンドアウェイを繰り返してくる。

接近戦になればあるいはとも思うがこうも素早さを活かしてくると防御する以外に手がない。

寸止め一発。

それが勝利条件である以上被弾覚悟でってわけにいかないし……とにかく今は耐える。


なんとか凌いでいると少しずつ目が慣れてくる。

ここ!


「っ!?」


くそ。

躱されたか。

だが、攻撃する事は出来た。

こっからは防戦一方ではなく俺も反撃していく。

こうなってくるとリリンも少し慎重に……ならないな。

むしろこれまで以上にガンガン攻めてくる。

防御をしたりカウンターを合わせたりしていくが、どちらも有効打はなく攻防が続く。


演舞の練習をしてきたおかげなのか力の制御が上達している感じがする。

だからこれまでしてこなかったフェイントも上手く織り交ぜる事が出来ていると思うんだけど、それもリリンには通じず防がれている。

急停止、緩急の使い分けなんかを試してみるもやはり防がれる。

その際にこちらの木剣の動きに合わせて防御も動いているのをみるに、どうやらリリンは予測ではなく視て防いでいるみたいだ。


相手の動きなどから予兆を察知して予測して防ぐのが一般的だと思うが、リリンはどうやら動きそのものを視て防いでいるみたいだ。

何それ。

凄すぎじゃないか。

こちらの動きを見切る動体視力に、それに合わせて動かせる神経伝達速度……やっぱこの嫁凄い。


とはいえ、それに対して泣き言を言うわけにもいくまいて。

このまま防御寄りにして持久戦狙いという手もあるが……好みじゃない。

それに冒険者が持久戦狙いってのもどうかと思う。

持久戦になればどちらも怪我や損耗が増える。

装備は全て自費で賄う冒険者には持久戦を避けるべきだし、魔物の遺体が主な収入源だから傷を増やす行為は避けるべき。


相打ち狙いも無し。

さて……どうしたものか。


「せやっ!」


リリンの接近に合わせてカウンターをするもやっぱり躱される。

もう少しで何か手が浮かびそうな気がするんだが……何か頭の片隅に引っかかる。

何だ?


「はっ! しまっ!?」


手はないかと考えを巡らせすぎたのがいけなかった。

有効打が無いのは向こうも同じで、ならばリリンも何かしら考えるのはすぐに分かるはずなのにそれを怠っていた。

決められた動きだけをしていた弊害かもしれない。

だけどもうどうすることも出来ない。

カウンターにと振った俺の木剣の間合いの外に木剣が当たる瞬間に一歩だけのバックステップをしたリリンが居る。

デ◯ルフォースディメンション……漫画読んだ後真似して練習してたっけなぁ。


「そこまで!」


また勝てなかったよ。


「レント。」

「どうした?」

「足痛い。」

「あー、裸足だからなぁ。それであんな高速機動なんかしてたらそりゃあな。」


靴とか履いてたら緩衝材とかで緩和されるんだろうけど、ここ室内だからなぁ。

靴下だと滑ってかえって危険だから裸足になるしかない。

屋内用の靴でも用意した方がいいのか?

いや、靴脱ぐのはヤマトの中だけだしそれは勿体無いか。

足といえば……。


「そうだリリン。膝とかは大丈夫か? あんな高速でのバックステップなんてしたら膝に掛かる負担も大きいだろう?」

「ちょっと痛む。でも大丈夫。」

「大丈夫じゃない。今後一切の使用を禁止する。ポーションとかで治るかもしれないけど、無茶をして体を壊すなんて真似してほしくないんだよ……。」

「ん……分かった。」


あの漫画でも、アメリカでの話の時点でかなり負担が掛かるって言ってたしな。

ステータスで頑丈になっててもそれ以上に速く動いたら意味がない。

ましてやリリンのステータスは全体的に高水準で素早さが特に高いけど防御面はそこまで高くないから。

リリンが本気で動いたら多分耐久の方が負ける。

そんなの、絶対に認めるわけにはいかない。

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