第1273話 珍しいこともあったもんだな。的なお話
あー、終わったんだなぁ。
祭りの終わりってどうしてこう寂しいんだろうな?
1日過ぎただけで既に昨日までの賑わいは薄れ、そこら中で片付けが開始されてしまっている。
まだまだ祭りは終わらねーぜとばかりに商売っ気を出してる所もあるが、既に街の雰囲気は祭りが終わったというもの。
そんな事をのんびりと街中を歩きながら考える。
「はー。なんか、変な感じだなぁ。」
そういえば俺が見てきたヒノモトって、全部封竜祭に向けてって状態だったか。
もう少ししたら本来のヒノモトが見れるって事になるな。
寂しさもあるけど、寂しがってばかりではいけない。
ちゃんと前を見よう。
さて、それじゃあ帰るか。
これまでずっと英雄役として頑張って来たからちょっと羽を伸ばしたいと1人で出てきたからな。
あんまり長い事外に出てるのは良くない。
リュウガミネ家の人達からいつ誘いが来るか分からないし。
ああ、そういえばユキノの所のキサラギ家の方はどうなっているんだろうか?
会う機会はあるのかな?
「おっと、ごめんよー。」
ああ、スリか。
財布には小銭……っていうかこの世界には硬貨しかないけど、それでもまあそこまで高額は入れていない。
大体はストレージ内にある。
あるとはいえ盗まれたのは事実だし取り返すべきたんだろうなぁ。
でも、スリをしたのは子供だったし……裕福じゃないんだろうし盗まざるを得ないのかもしれない。
ま、いいや。
どうするかを考えるのは俺の仕事じゃない。
とりあえず捕まえて出すとこ出せばいいか。
住む環境とかに問題ありそうならミコに言えばいいし。
そうと決まれば早速追いかけるか。
◇
「へへっ、ちょろいもんだぜ。まあ、あんな優男じゃ気付くはずもないだろうけどな。」
「救いはなさそうだなぁ。残念だ。いや、楽だからこの場合は良かったと言うべきかな。」
魔法か魔道具かは分からないけど、どうやら姿を偽っていたみたいで、裏道をある程度進んだところで子供は姿を変えて20台前半かそこらの男になった。
子供だったならば貧民街の出身かあるいは捨て子か孤児院だろうし、その場合はその子が生きる為に仕方なかったと情状酌量の余地はあった。
でもこいつは既にいい大人だ。
冒険者になるという選択肢があった中での罪を犯すという選択をしたんだ。
なら、もはや気を使う必要はない。
「くそ! いつの間に!?」
「さて、そんじゃ捕まってもらうとするか。」
「誰が!」
姿を変えたのには驚いたが、所詮はその程度。
スリをするような子悪党が強いはずもなく、抵抗されたがすぐに無力化に成功。
演舞をやっていたおかげかねー?
身体は鈍っていると思っていたが、意外や意外というか、何がどう作用するか分からないというか、手加減が少し上手くなってる気がするな。
何事も真面目にやってみるもんだね。
「ご協力感謝いたします。」
「すみませんがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんよ。俺の名前はレントと言います。」
「は、え!? 英雄役の!?」
「騒ぎを起こしたくないので内緒でお願いします。」
「「は、はい!」」
カツラと帽子を軽く上げ、眼鏡を下げて髪と目の色を見せれば驚いたような顔をしてくれる。
まあね、流石に治安を守る人達が昨日までやっていた封竜祭の目玉でもある英雄演舞の英雄役の顔を知らないなんてありえないよね。
そんで変装を軽く解けば分かりもするさ。
詰所を後にして改めて宿屋に帰る。
しかしまあ、封竜祭が終わってすぐにこれとか、ゲームやラノベ的イベント毎には縁の無い俺にしては珍しいこともあったもんだな。
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