番外編 雛祭りif 〜日本編〜

「ねぇ、蓮斗。蓮斗の家に雛人形ってある?」

「急にどうした?」

「ほら、最近テレビとかでもうすぐ雛祭りって言ってたりするじゃない?」

「まあ、そうだな。」

「それでその雛祭りってのを調べてみたら、雛人形っていうのを飾るってあって……」

「それで気になったと。」

「うん……。蓮斗の家なら唯ちゃんも居るしあるかなって思ったんだけど……ある?」

「確かにあるが……そうだな。なら見に来るか? そんでそのまま夕食も食べていけばいい。」

「いやそんな、見るだけでいいよ。迷惑になるだろうし。」

「雛祭りにはちらし寿司がつきものなんだ。だからそれも一緒に食べていけばいいよ。」

「本当にいいの? 迷惑にならない?」

「大丈夫だろ。最近だと面倒だからって飾ったり飾らなかったりだから飾るいい理由になるからこっちとしてもありがたいよ。こういうのはやっぱり毎年やっておきたいからね。」

「でも蓮斗は男の子だよね?」

「それはそれ。こういうイベントごとっていうのは何かしらの意味があるから、その意味が分からなくてもあやかっておいた方がいいし、伝統は大事にしたいからさ。」

「そっか。」

「あの、私達も行きたいんですけど、お願い出来ませんか?」

「アリシアさんとレイカーさんも?」

「はい。私達の国にも雛祭りという文化はありませんから興味がありますので。」

「なるほど。多分大丈夫だと思うよ。今夜母さんにもお願いしておくよ。」

「ありがとうございます。」


3人連れて……いや、5人連れて帰ることになりそうだな。

多分李凛と瑠璃絵も一緒に来るだろうし。



3月3日、桃の節句。

雛祭り当日とはいえ、今日も学校があるのでまずは普通に授業を受けて、それから3人(恐らく+2人になるだろうが)と合流して家にって事になる。

だからそれまでは普通に授業を受ければいいんだろうけど……。


「楽しみだねー、雛人形。」

「確か雛祭りには歌があるんでしたよね?」

「私も聞いた事あります。えーと……これですね。」

「レイカーさん……これ違うよ。」


レイカーさんがスマホを操作して動画投稿サイトか何かを表示したんだろう。

でも、なんでそこから聞こえてくる歌が残◯な天使のテーゼなんですか。

雛祭りの歌なのになんでそうなるんですか……。


そんなこんながありつつも無事に何事もなく今日の授業は全て終わりセフィア達と一緒に家に帰る事になったけど、やはりというか、予想通り李凛と瑠璃絵も一緒に来た。

予想通りだから驚きも何もないけど。

むしろ一緒にいるのが当然という気までしてくるから不思議だ。


そして家の側まで来たところで正面から複数人の集団が歩いてくる。

蒼井だ。

その側には見た事ない女性が何人かといつぞやの雪乃さんが居る。


「そっちも今帰りか?」

「そうよ。」

「で、その人達は?」

「留学生で雛人形見たいって言ってたから呼んだのよ。」

「そっちもか……。」

「もっていうか、あんたが呼ぶって聞いたから私も合わせたのよ。どうせなら大きい雛壇の方がいいかと思って。」

「は? ちょっと待て! それってウチの事か!?」

「当たり前じゃない。私の家のは五段だけどそっちのは七段じゃない。どうせ見せるなら七段の方がいいに決まってるわよ。」

「そんな話聞いてないぞ!?」

「でもおばさんからはいつでもどうぞって言われたわよ?」

「母さん……。」


なんで教えてくれないんだよ……。


「えーと、それで蒼井はこの3人とは会った事あったよな?」

「バレンタインの時ね。」

「いつの間にか大所帯になってて驚いたよあの時は……。」


本当にね。

友人連中はバレンタインだから誰か家に届けに来るかもなんていうありえない期待に胸膨らませてたせいで遊びに誘っても応じてくれなかったから部屋でのんびりゲームしてたらいつの間にか一杯いたんだよね……。

とはいえ、向こうにも知らない2人がいる訳だし自己紹介しないという選択肢はないんだけど。


「えっと、初めまして……私はリナって言います。あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、俺は風見蓮斗。よろしくな。」

「はい! よろしくお願いします!」

「私はアイリスって言うっす!」

「元気だね……。」

「はいっす! ちなみに部活は手芸部っす!」

「手芸部なの!?」


手芸部でこんな元気な人ってイメージないなぁ。

どちらかと言うと陸上部的な雰囲気あるよ。


そんな4人と一緒に我が家へ。

大所帯でぞろぞろとしてるので流石にちょっと狭く感じる。

部屋を分ければそうでもないんだろうけど、それをする意味がないからしょうがない。

女子だらけに男1人とかすっごい居心地悪いけど仕方ない。


「蓮斗、それに優姫ちゃんにお客さんよ。」

「客?」

「というか私もですか?」

「会えば分かるわ。リビングで待ってるわよ。」


よく分からないけどとりあえずリビングに行くとそこには赤みがかった茶髪をポニーテールにした女の子が座っていた。


「蓮斗、優姫、久しぶり。」

「「?」」

「あれ、忘れちゃった? ほら、小学校まで同じだった……。」

「ああ! もしかして、茜か!?」

「正解。」


倉科茜。

俺と蒼井、唯のもう1人の幼馴染みで小学校高学年の頃に親の仕事の都合で転勤して以来ろくに会ってなかったけど、本当急にどうしたんだろうな?

会えたのは嬉しいけどさ。


「うわ本当に茜なの!? というかなんでここに!?」

「私こっちの大学受ける事にしたからそれでどこにしようかって見に来てるの。一応オープンキャンパスに参加って事になってるから公欠になるわね。」

「そうなのか……でも来るなら来るで教えてくれればいいのに。」

「おばさんには伝えたんだけど、そしたら黙ってる方が面白いからって。」

「こっちもかよ。」


母さんェ……。


「つもる話もあるでしょうけど、蓮斗ははいこれ。人数増えて食材が足りなくなったからお使いよろしくね。」

「はぁ!? なんでこのタイミングで!?」

「むしろこのタイミングだからこそよ。今から行かないと夕飯に間に合わないでしょ。」

「あー、もう! 分かったよ! 蒼井! 後はよろしく。雛人形はいつもの場所に入ってるから飾りつけ任せた。」

「はいはい。いってらっしゃい。」


本来はもっと早くに飾る物だけど、どうせなら飾り付けも経験してもらおうと思ってたのに、なんでこうなるかな。

雛祭りに男は不要って事なんかね。

寂しい。



ちらし寿司だからだろうな。

お使いの内容は桜でんぶに刺身類、後は刻み海苔か。

ご飯にすし酢に卵は家にあるんだろうな。

でも、母さんが色々仕込んだんなら買い物くらい済ませておけよなとは思う。

全くなんで俺がお使いに……。


そして買ったお刺身が傷まないように急いで帰ると、そこには姫がいた……。


「あ、蓮斗。おかえりー。どうかなこの格好……変じゃないかな?」

「……変じゃない。というか、似合いすぎる……。」


何がどうなったのか分からないけど、素晴らしい光景だ。

美少女達が着物を着ている。

それだけで、もう、理解出来るだろう。

この光景の素晴らしさが。

そうか、ここが楽園か……。


「どう? 可愛いでしょ?」


恐らくこの光景の主犯立役者であろう母さんがそんな事を言ってきた。

なので俺は迷わずサムズアップで答える。

成る程。

この準備の為に俺を外に出す必要があったわけか。


「あれ? そういえば雛人形は?」

「あー、それなんだけどね……。」


何やら言いにくそうにしている蒼井。その蒼井もちゃっかり着物を着てたりする。

くそぅ……蒼井のくせに可愛いじゃないか。


「着替えをしたり手伝ったりしてまだ途中なのよね。それで、みんなこの格好だから飾るのは難しいのよね……だから本当に、ごめんね?」


みんなで飾り付けするはずが、俺1人で飾り付けする事になった。

まあ、素晴らしいものが見れたしこれくらいはしょうがないか。


1人で飾り付けをしている間にお使いしていた物を使ってちらし寿司が作られ、それをみんなで食べる。

留学生組とセフィアは初めて食べるらしく感激しながらも美味しそうに食べていた。

ひなあられや菱餅なんかも振る舞われて、最後には雛壇の前での写真撮影が行われ、全員集合しての物と何故か俺とのツーショット撮影もあったが、写真の中のみんなはとびっきりの笑顔だし、まあ、楽しんでもらえたなら良かったかな。

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