第1272話 じゃあ、またな。的なお話

すーはーすーはーと深呼吸。

指先をぺろっと舐めて首の両サイドを湿らせる。

それ、どんなお呪いだよ……。

この世界特有のものなのだろうか……こう、掌に人と書いて飲み込むっていうのみたいな。

今更だけど、どういう経緯で掌に人と書くってのが生まれたんだろうね。

今更調べようもないからどうでもいいと言えばどうでもいいんだけどさ。

でもちょっと気になる。

そして最後にパシンッ! と音を立てながら両頬を叩いたアルフレッドはアザミ達の方に……行かないでまた深呼吸から始めた。

気持ちは分かるけど、それじゃいつまで経っても終わらないから。


というわけで。


「おらっ! そんな事やっててもなんも変わらんだろ。まずは当たってこい!」


半ば強引に押し出してアザミ達の前に行かせる。

その後の事は知らん。

もちろん上手くいく事を願ってはいるが俺がこれ以上介入する事はできない。

むしろユキノと一緒の俺が行く方が拗れる可能性だってある。

ホムラさん、キサラギさんを一方的に敵視してるらしいからなぁ。


「あれでいいのか?」

「知らないけど、あのままだと動く事すらせずに打ち上げが終わってたかもしれないし。」

「それは確かにそうだが……。」

「後はアルフレッド次第だ。ダメだったらその時は愚痴にでも付き合えばいい。ヒサギさんもその時はよろしく。」

「む、そうだな。分かった。」


もしもの時のフォロー準備も出来たし、後は食べるだけだ!

これだけの規模の打ち上げともなれば美味しいものは山のようにあるだろう。

この国に滞在するのもそう長くはないだろうし、悔いの残らないように食い溜めしておかないと。

次はいつ来れるか分かんないし。


そうしてひたすらに貪り、時折やって来る誰かの相手を軽くしたり、嫁達とおしゃべりを楽しんだりした所、いつの間にかそれなりに時間が経っていた。

壇上では酔っ払いが何やら宴会芸を披露したり、あるいはよく分からない歌を歌ったりして場は結構盛り上がってる。


「ちょっと飲み物取り行ってくる。」

「うんー、分かったー。」


ふらふらと会場を彷徨い、何か良さげな飲み物が無いかを探す。

ん?

視界の端に、何か紅い物が……。

ああ、そうか。


「また、お得意の人除けの結界か?」

「いや、今それをやれば迷惑がかかるし別のを使っておるよ。」

「へぇ、そうなんだ。」

「うむ。今回使ったのは認識阻害の効果があるもので身に纏うようにして展開しておる。それを蓮斗だけが見れるタイミングで一瞬だけ緩めて気付かせたんじゃ。」

「また芸の細かい事で……。それで、何の用だ?」

「何、演舞の感想でもと思っての。」

「そうか。それで、どうだったんだ?」

「歴代でもそこそこの出来だったよ。」

「そこそこかよ。ならわざわざ言いに来る必要なんて無いんじゃないのか? こんな誰に見られるとも分からない所でさ。」

「確かにそこそこだが、それでも、妾には素晴らしいものに思えたんじゃ。技術だって、演技だって、上手い者はこれまでに何人も居た。じゃが、その者達よりも、心に響いたのじゃ。」

「それは……俺にだけは本当の事を伝えたから特別に感じたんじゃないかな。」

「かもしれんな。」


知り合いとか、家族とかそういう関係ってだけで客観的に見ればそうでもないはずなのに、妙に印象に残る事ってあるし、そういう事なのかもしれないな。


「所でさ、封印の方はどうなんだ?」

「……今のところは、何の変化もなしじゃ。」

「そうか……。俺にはさ、そんな浄化をするとか、そういう技能なんて持ち合わせちゃいないから何にも出来ないけどさ、えーと、なんていうかさ、それでも何か出来る事があるかもしれないから頼りたくなったら、頼ってくれ。最も、神様に言う事じゃないだろうけどさ。」


感想を言いに来たという、ミコの瞳がなんだか凄く寂しそうに見えて、だから自然とこんな事を言ってしまった。


「そうじゃな。そういう事態が来るとは思えぬが、何かあったら、その時は頼らせてもらうとするかの。」


どれだけの救いになったのか、そもそも救いにすらなってないのかもしれない。

それでも、悲しげな瞳から、寂しさを少しでも取り除けたような、そんな気がする。


「だが、いまのままじゃちと頼りないし、もう少し精進する事じゃな。」

「なんだよそれ。人の好意くらい素直に受け取れよ。」

「ふっ。ならば素直に頼れるくらい強くなればよかろう?」

「言われなくてもこれからも努力するつもりだよ。」

「そうか。では、妾はそろそろ行くとするかの。あんまり長居して誰かに見られても面倒だしの。」

「じゃあ、またな。」

「うむ。また。」


ミコを見送った後、飲み物を手にみんなと合流し、また食事に戻り、そのまま打ち上げはお開きとなった。

2次会もあるみたいだけど、俺はいいかな。

酔っ払いも多そうだし。


「それじゃあ帰ろうか?」

「うん。」

「ん。」

「はい。」

「えー、私後夜祭見たいんだけど。」

「私も興味あるし、ちょっとくらい寄って行かない?」

「んー、そうだな。でもちょっとだけな。」


そんじゃま、後夜祭も楽しむとしますか。

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