第1231話 気を引き締めつつも気楽にやるか。的なお話
キリハさんも着替え終わったよう舞台袖にやってくる。
前から見てはいたけど、やっぱり似合ってるな。
鬼人族だからかね。
キリハさんの見た目は装飾が多い、こう……神楽を舞う感じの装飾の多い巫女服。
見栄えも大事だしこういう感じになるのは納得なんだけど、なんで普通の巫女服なんだろうね?
だって話の巫女ってあの紅白巫女だろう?
ならキリハさんの衣装も紅色になると思うんだけど……あれかな?
国のトップが最前線にっていうのは隠したいみたいな。
でも、王が最前線にって誉れでもあるし……もしかして、恥ずかしかったから?
「どうしました?」
「ああ、いや、ちょっと考え事を。それよりもその格好、良く似合ってますよ。」
「ありがとうございます。ですが、それはお2人もですよ。」
「そうなんですかね。自分では違和感しかないんですけどね。」
「そんなもんですよ。」
女性の目から見ても似合ってるらしいが、やっぱり違和感しかない。
まあ、女性の審美眼は基本高性能だろうし少なくとも俺よりも上なはず。
だから多分問題ない。
「皆さんお集まりのようですね。」
「はい。」
「では、開催の挨拶についての簡単な流れを説明させていただきますね。まずは壇上に上がっていただき国民への顔見せをしてもらいます。その後はキリハさんにはこちらの帝様からのお言葉を読んでいただき、続いてヒサギさんには封竜祭での注意事項を言ってもらい、最後にレントさんには開催の宣言をしてもらいます。こちらがそれぞれの原稿となっております。」
「あ、原稿はあるんですね。」
「自分の言葉で言ってもらってもいいのですけど、どうしますか?」
「原稿貰います!」
自分の原稿を受け取ってその内容を確認する。
ホッ……そこまで長くないしこれならすぐに覚えられそうだな。
何度か発声練習をしていたらあっという間に挨拶の時間になってしまったな。
壇上に上がると既に国民は待ち構えていて封竜祭の始まりを今か今かと待ち侘びている様子。
その興奮具合が見て取れる。
それだけ楽しみにしていたんだな。
「本日これより封竜祭を開始しますが、それに際して帝様よりお言葉を頂戴したのでここで読ませていただきます。『親愛なる我がヤマトの民よ。今年も無事に封竜祭を行える事を嬉しく思う。それも皆が今まで頑張ってきたからこその事だ。これまでの努力が実を結んだことを喜び、今を楽しみ、そしてこれからの糧にして貰えたら幸いだ。』との事です。」
そういえば、紅白巫女って一般的には顔が知られていないんだっけ。
自分で言えばいいのにと思ったが、そう簡単に顔見せできない立場なのを忘れていた。
あれだけ頻繁に現れてたからねぇ。
わざわざ人避けの結界まで張ってやる事が人の弁当に集る事なんだから驚きだよ。
まあ、その時に『妾の立場を知って尚普通に接してくれる者は居らぬから、レントの存在が嬉しいのじゃ』とか言ってたから、気持ちは理解出来るけど。
上の立場になると気楽に接することの出来る相手はそう多くないだろう。
だからこそ、殺害ではなく封印という手段を取ったのかもしれないな……。
と、それよりもそろそろヒサギさんの注意事項も終わるな。
次は俺の番。
「以上が封竜祭における注意事項となっております。」
「今日より3日間、出店に武闘大会に英雄演舞。他にも様々な催し物が目白押しだ。4年に1度のお祭りを存分に楽しもうではないか! 今ここに、封竜祭の開催を宣言する!」
ちゃんと出来てるかは分からないが、歓声が上がってるし結果だけは問題ないだろう。
一仕事終えたのでここらで一息つきたいところだが、そうもいかない。
むしろここからが本番だ。
何故なら……
「大名が少しずつやって来たみたいですね。」
「ですね。少し声が聞こえますから。」
「こういうのってやっぱり順番とかあるんですか? 誰から来るとかそういうの。」
「ありますね。位が下の者が先にやって来て、後から来る者に挨拶をするというのが一般的です。そうしないと嫌味を言われたりもしますから。」
「あー、やっぱりそういうのはどこにでもあるんですね。」
「はい。」
となると、まずはフミカゲさんが先に来るって事か。
ちょっと挨拶をしたいけど、流石に勝手に動くわけにもいかないし、挨拶をしたが故に周りから色々言われたりとかするかもしれないしここは我慢しよう。
そうして舞台袖で出番を待っていると舞台の方から聞こえてくる声が徐々に増えて騒々しさが増していく。
演舞開始まで残り10分となった所でどのくらい大名達が集まってるのか気になり、ちょっと覗いてみる。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、予想よりも人数が少ない事に驚いて……。」
「ん〜……そんなに少ないですか?」
「大名とその家族が見に来るんだから1000人くらい居ると思ってたので……。」
「いくらなんでもそこまで多くありませんよ。」
大名家が幾つあるのかは知らないけど、100くらいあると仮定して、でその当主と奥さんが数人、その奥さん達との間の子供が6、7人で10人くらい。
だから100×10で1000人くらいいくのかなって思ってたんだけど……どうやら違うみたいだ。
「預かっている領地を放置するわけにもいかず封竜祭に来れない者もいますし、京での仕事があって見物に来れない者もいますので全ての大名家の者が来れるわけではないのですよ。」
「そりゃそうか。」
「はい。それ意外だと最終日の方が好きだからという方々も一定数おりますね。」
「最終日だと何か違うの?」
「まず演者達が場慣れします。初めてやるよりも一度経験した後の方が緊張感が薄らぐのでより良い演技が出来るようになる事も多くありますし、一度人前で演じた事でどこをどうすればいいかの改善点が見つかり修正する事もできます。そしてこれが1番大きいのですが、最終日だけは舞台設備が豪華になります。初日のはあくまでも混雑を嫌う大名達の為の演舞で本番は最終日の演舞ですから。」
「なるほど。」
なら、ここで躓くようじゃ話にならないって事ね。
何せ、メインは最終日なんだから。
それに観に来てるのも数えたわけじゃないから正確な数字とは言えないけど、300人くらいしか居ないし、この人数の前で緊張や失敗してたら最終日に不安が残るというもの。
というわけで、きっちりと気を引き締めつつも気楽にやるとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます