第1157話 今日はもう帰ってみんなに癒されたい。的なお話

「親の顔がどんなで、どんな職業なのか、何1つ分からないんだ。俺は物心つく前から既にスラムにいて、そこで似た境遇の子達に守られて育っていたんだ。でも所詮はスラムで守ってくれてるのは同じ子供でさ、いつもどこからか食べ物を調達して来てくれて、幼い子達はみんなそれを食べて日々の飢えを凌いでいた。石みたいに硬くなったパンや痛みかけの野菜や果物、それらを1日に一度だけ、それどころか数日無いなんてこともザラにあってさ……それでもなんとか生きていたんだ。そうして日々を生きていくうちに年長者の子達が1人、食べ物を調達しに行って、そのまま帰って来なかった。年上の子達はみんな何も言わず、残った子達の中で1番年長だった子がリーダーになった。その子もまたいつの間にか帰ってこなくなって、また1番年長の子がリーダーになる。そんな事を何回か繰り返していく内に、いつの間にか俺も最年長者になってた。そして、下の子達の為にどこからか食べ物を調達しなきゃって、必死に過ごしてたある日、いなくなったはずの子達を見かけたんだ。みんな、スラム街を取り仕切る裏社会の組織に組み込まれてた。そして説明されたんだ。俺達がこれまで食べてきた物の大半はその組織からもらったもので、年長者はその恩を返す為にある一定の年齢になるとその組織に入らないといけないって。俺に、選択肢は無かった。また同じ境遇の子達がやってくるのに、何より、お腹を空かせて待っている子達がいるんだから。一定の年齢になるまではその組織から食べ物を受け取って、そして俺は組織に入った。そこでやらされたのは当たり屋とか詐欺の片棒を担いだり、別の組織との抗争の為の戦闘員とかで、まともな仕事じゃなかった。でも、生きる為にはそうするしかなかったんだ。でも、そんな救いようのない人生を歩んでいた俺に転機が訪れたんだ。いつものように、当たり屋をして、イチャモンつけてお金を奪うつもりだったんだ。」

「その相手がアザミだと?」

「その通り。ぶつかるつもりが躱された挙げ句、反撃をもらう始末。一応簡単な戦いの指導は受けたりしたんだけどね。全く反応出来なかった。まあ、それはいいとして、その時に見たアザミの姿が目に焼き付いて離れなかったんだ。まさしく一目惚れってやつだったね。それからアザミについて行かせてくれって懇願して、組織もそれ相応の手切金を要求されたりしたけどなんとか抜ける事が出来てね……まあ、最終的にアザミが身分とか力とか色々使ってくれたりしたおかげだったりするんだけど。アザミ自身にも思惑があったとはいえ、そのおかげで無事に組織を抜けてアザミと一緒に旅をする事になって、その道中に俺を英雄役候補にするべく色々としてもらって、なんとかこうしてまともになれたんだ。それまでは言葉遣いは荒々しいし、見た目もチンピラそのもの、ちょっとした事でもすぐにキレるような奴だったんだけど、1つ1つ改善に尽力してくれて……ますます好きになったんだ。そんなこんながあって今ここに俺は居られるんだ。だからこそ、俺はアザミさんの為になんでもしたいんだ。どうしようもない人生を歩んでいた俺に……いや、俺の光になってくれたアザミさんの為に。」


……話長っ!

え、原稿用紙何枚分?

10分くらい延々と喋ってなかった?

しかもその内容が自分の半生を語るとか……。

いや、10分くらいで済んで良かったと考えるべきか?

本当にこれまでの人生を語るのであれば10分くらいで終わるわけがないし。

内容を纏めてあるからそれだけなんだろうが、3年半か4年かそこらの期間だけで200万文字超える作品とかあるらしいしそれに比べたら全然マシか。


「そうか。それじゃあ俺はこれで。」「えぇっ!? このタイミングで!? いやいや、ここは普通同情なり共感なりして仲を深める場面じゃないのか!?」

「いや、仲良くって何をどう仲良くなんだよ? 結局アザミの悲願を叶えたいって話だよな? それ俺にはどうしようもないだろ。俺とお前は英雄役を競う間柄だし、ユキノとの関係だって当人達の問題じゃないか。それ以外にどうしろってんだよ?」

「それは確かにその通りだけど……。」

「そもそもの目的はアザミの様子が変だって話だろ? その理由は分かったんだったらもう用はないだろ。それでもって言うんなら、ユキノは既に快復したから安心していいって伝えろってくらいしかないぞ。」

「え、そうなのかい?」

「ああ。分かったらさっさと伝えに行ってこい。」

「そ、そうだね。」

「って、ちょっと待て! 会計!」


慌てて飛び出そうとしたアルフレッドを止め、なんとか会計を済ませてから別れた。

はぁ……疲れた。

自主練、今日はやめて明日の朝にやろう……。

今日はもう帰ってみんなに癒されたい。

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