第1154話 他の連中は怪我でリタイアしたりするかもしれないな。的なお話
「今日も馳走になったな。」
「まあ、今回はこちらも半分くらい頂いたので構いませんが……。」
「うむ。では、また明日も会おうぞ。」
「え、あ、はい。分かりました。」
この人、明日もって言いやがった。
もう隠す気ゼロだよ。
また明日も集る気だよ。
今日みたいに弁当持参してくれるのならまだいいけど、そうでないならちょっと困るな。
というか、この人多分結構偉い人なはずなのにそう頻繁に来て大丈夫なの?
いろいろと不安になるんだけど。
そんな俺の考えをよそに、紅白巫女はまたしても目の前から忽然と消えてしまった。
本当に、どうやってるんだろうねぇ?
隠密系のスキルか何かなのか、あるいは転移系なのか、はたまた本当に幽霊的な存在で姿を隠したのか……。
そんな事を気にしてても仕方ないし、そろそろ道場に戻るか。
まだ時間ではないけど早めに戻って何か悪いことがあるわけでもなし。
むしろ、のんびりしてて居眠りして時間に遅れるなんてことがない分良い事だろう。
食べてすぐに動くと横腹が痛くなるから腹ごなしはしないけど。
再開間近となり外に出ていた人達が続々とやってくる。
遅刻するかどうかの瀬戸際にダッシュでやってくる感じ、まるで門が閉まる直前の学校みたいだ。
3日目という事もあって少し気が緩んでいるのかもしれないな。
まあ、俺には関係ないけど。
「全員揃っているな。これより午後の稽古を始める。だがその前に言っておく事がある。これから始める稽古はかなり地味で、そして危険が伴うものとなる。その事を念頭に入れて稽古に励むように。」
危険が伴うってどんなのだ?
大体相手がいないのに危険になるような事なんて無いと思うんだけ……って、そういえばあったな、危険が伴う動き。
その考えが正解だと言わんばかりに、指導役の人は前方へ弧を描くように跳びながら横回転していた。
うん、気を抜いたら怪我するね。
そこでなんで横回転なの?
普通に跳んじゃダメなの?
普通に跳ぶ分には問題なくできる自信があるんだけど、あんな風に横回転なんかしてたら着地が不安になる。
着地に失敗したら床を転がるよ、あれ。
そんな葛藤をよそに指導役の人はさあ早くやれと言わんばかりの目をしてる。
やる……しかないのか。
まずは周りの人と十分な距離をとって……そんで跳ぶ!
「おぉわっ!」
グルングルンと回ってる……跳んでる時間なんてそんなに長くないはずなのに、数十回も回ってるような感覚に陥る。
あ、床が……
「うおっ、とっ、とぉ……あだっ!」
着地する時の向きが横だった為にバランスが取れずにたたらを踏み、そのままこけてしまった。
痛い。
これ、むずいよ。
横回転してるせいで前後感覚があやふやになるし、跳ぶ時の勢いによって体の向きとかも違ってくるし……それを調整しないといけないから……どれだけ転べば完璧に出来るようになるんだろう……。
周りに目を向けて見ればそこかしこでどたんっ! バタンっ! ズダンッ! って落ちる音が鳴り響き、野太い……イケボも混じってるけど、男達のうめき声なんかが聞こえてくる。
苦戦しているのは俺だけじゃないみたいだ。
最初に見せてくれた一連の動きの中で残りの部分は後少しだった気がするけど、半分よりも大分少なかった気がする。
多分それは、午前のおさらいと共に、こうして苦労するという事を見越しての事だったんだろう。
跳ぶ時の力加減や、体の捻り方による回転数の調整方法なんかを模索しつつ、しばらくの間俺も呻き声のコーラスに参加した。
その甲斐あってか、1時間もする頃にはかなりの精度で綺麗に着地出来るようになった。
たまにミスって体の向きが変わってたりするけど。
こればっかりは反復練習あるのみ。
そらにしても、体中痛い。
何度も落ちて転んだせいで打ち身がある。
ステータスのおかげで酷い怪我というレベルではないのには助かった。
そうじゃなかったら骨の1、2本逝ってたかもしれない。
こんなに大変だと、他の連中は怪我でリタイアしたりするかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます