第1104話 忙しいと食べ歩き出来ないし。的なお話

「ええ、国とは言っても所詮は島国。そこまで広くはないわよ。それでも直径は1000キロくらいはあるわね。」

「な、なるほど……。」


馬車でどのくらい進んだのは分からないけど、1日100キロだと仮定してそれが5日。

反対側の道も合わせて1000キロって事かな?

必ずしもそうだとは限らないけど。

反対側が400キロくらいしかないかもしれないし。

この世界に正確に距離や長さを測る技術があるとも思えない。

日本で測量した伊能忠敬も、十数年掛けたって話だし、その伊能忠敬も測量中に寿命だか病だかで亡くなってお弟子さんが跡を継いだっていう話も聞く。

日本でそれなのだ。

魔物が闊歩するこの世界で、そこまで正確に測れるとは思えない。

まあ、それでもそのくらいの長さはあるんだろうな。


「他には?」

「次に聞きたいのは京での注意点ですね。大まかな法律とかは大体どこの国も同じでしょうけど、それとは別にヤマトの京ではこれはやっちゃいけないとか、注意が必要だとか、そういった事を知っておきたいので。」

「それならユキノにでも聞いておいたらいいんじゃないの? なんで私なのかしら?」

「護衛対象とある程度コミュニケーションを取っておいた方がいいと思ってたので、丁度いいかなと思ったんです。後1日で着くのでたいして意味はありませんでしょうけど。」

「そういう事。注意が必要な事ねぇ……孤児や乞食に食べ物等や金銭を渡さない事くらいかな。あ、後は武器の携帯は禁止。」

「武器の携帯禁止はまだ理解出来るけど、孤児や乞食にっていうのはどういう事か教えてもらってもいいですか?」

「彼らの支援は国の政策の1つですから。それに、誰かに施しを与えればそれを見て自分もとその人に群がるでしょう? そうなると京の景観を損なうから禁止してるのよ。」

「なるほど。」

「それと、武器の携帯だけど、封竜祭が近いから。封竜祭が近付けばそれだけ多くの人が集まってくる。そうなると自然と喧嘩とかが増えてくるのだけど、その時に武器を持ってたら刃傷沙汰になっちゃうじゃない? 目に見えるところに持ってたら咄嗟に武器を抜き放つなんて事にならないように封竜祭の時期では武器の携帯は禁じられてるの。もちろんアイテムボックスとかアイテムバッグを持ってる人はその中まで規制したりはしないわ。それ以上はやりすぎだし。咄嗟に武器を出せる状況でなければいいから、武器を持っている場合は簡単に抜けないようにする必要があるわね。剣なら袋に入れて持ち歩くとかで。」

「となると、俺、リリン、シア、ユキノ、蒼井はともかく、他は袋を用意しないといけないか。普段ならともかく、人混みで逸れる可能性もあるし、そこで何かトラブルがあったときに対処出来るよう武器はあった方がいいだろうし。確認するけど、そういう事態になった時は武器を使ってもいいんですよね?」

「そういう時なら問題は無いわね。むしろ、そんな時まで規制する方が問題だし。」

「それなら安心です。それじゃあ、最後の質問ですけど、京に行ったらこれは食べておくべきって物はありますか?」

「え、食べ物……?」

「はい、食べ物です。」

「そういえば、勇者料理が好きだと言ってましたね……それならば、お好み焼きなんてどうでしょう? 勇者が広めたとかで勇者焼きとも呼ばれてます。」

「なんか、勇者を焼いた物みたいな呼び名ですね。」

「言われてみれば確かに……。」


しかし、お好み焼きね。

日本には◯◯焼きなんていうのは珍しく無いのに、なんでお好み焼きが勇者焼きなんて言われてるんだろう?

この国に来た最初の勇者が広めたから、とか?

でも、なんでお好み焼きなんだよ……そこはたこ焼きでいいじゃないか……。

当時はタコは食われてなかったのか?

それとも勇者はタコアレルギーだったりしたのか?

……ぶっちゃけ、個人的にはたこ焼きの方が好きなんでお好み焼きよりもたこ焼きが勇者焼きだった方が嬉しいってだけなんだけど。

ソースとマヨネーズの旨さに中がトロッとしててそれでいて歯応えのあるタコの食感。

一口で食べられる手軽さも、持ち運べる気軽さも良さの1つ。

……考えてたら食べたくなってきた。

京でそんな暇があるかは分からないけど、たこ焼きも探してみよう。


「おーい、聞いてるー?」

「え、何ですか?」

「何って、急に話聞かなくなるんだもの、そりゃ気になるわよ。」

「あ、すみません。ちょっと京に着いてからの食べ歩きについて考えてました。」

「それもいいけど、あなたの本分は英雄候補だという事を忘れないでよ?」


いえ、本分は冒険者なんですけど……。


「あんまりふざけてると、本当に本を売るから。」

「それだけは勘弁してください。」


うん、本当に勘弁して欲しい。

その後もいくつかおすすめを聞いてから部屋に戻った。

鍋料理専門店に味噌料理専門店、串カツ屋なんかも楽しみだ。

後は、候補というのだから試験か何かあるんだろうけど、それが簡単に済めばいいんだけど。

忙しいと食べ歩き出来ないし。

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