第1084話 気を引き締めていかないと、やられかねない。的なお話
護衛対象とコミュニケーションをとることはとても重要だ。
コミュニケーションをとる事で意思疎通がしやすくなるし、いざという時の対応の仕方なんかを事前に話せて、そのいざという時が起きた時に速やかに行動する事ができる。
だから、コミュニケーションをとるべきなんだろう。
なんだろうけど、何を話せば……?
あ、あれがあった。
「そういえば、昨日も取っていたメモはなんなんですか?」
「これの事ですか?」
「そうそう、それそれ。」
「これは、レントさんと会ってからのこれまでの事を事細かに書き記しているんです。」
「なんでまたそんな……恥ずかしいんでやめてくれません?」
「何故かって? そんなの決まってますわ! 英雄役となるレントさんに同行出来るんですよ!? それを記録しなくてどうするんですか!? こんな奇跡、二度とないかもしれないじゃない!」
くっそう……この世界にプライバシーという観念は皆無か。
事件捜査に関しては不当な手段で手に入れた情報や証拠は効力を持たないって日本では言われてたけど、この世界ではそれでも問題ないから治安維持を目的とする組織ならプライバシーが無い方がいいかもしれない。
だけど、俺はただの一般人なんだ!
だから、そういうのは本当に配慮してほしい。
というか、なんでもう英雄役になるって決めつけてるんですかねー?
黒髪黒目ってだけじゃ大したプラスにならないだろうに……。
目の色はともかく髪の色なんてカツラ被ったり染めたりすればそれで済む話じゃないか。
目の色にしたって遠くからじゃそこまではっきりと見えるわけじゃないし、そこまでの加点要素にならないと思う。
「それで、姿絵も欲しいんだけど、誰か絵の上手な人を知らないかしら?」
「は? 姿絵? なんで?」
「なんでって、さっき言ったでしょう? 製本するかもしれないからその時のために欲しいって。」
「…………は!? いやいや、まじでそれは勘弁してくれ! メモを取られるのすら嫌なのに、本にして晒し者とか本当にやめてくれ!」
「何故ですか!? これまでの英雄役は、英雄役に選ばれてからの話は出回っていても、英雄役になる前からの話はないんですよ!? そんな中選ばれる前からの話もあるとなれば絶対欲しいに決まってます! 私なら最低でも3冊は購入します!」
噂の保存用鑑賞用布教用という奴ですか?
どちらにせよそんなの認めません。
ええ、認めませんとも。
何が悲しくて自分の行動を書き記した本が売られにゃならんのですか。
断固認めませんとも。
「ん? 何か来る。」
そんな事を話しているとリリンが何かの反応をキャッチした。
その一言に俺達はみんな警戒態勢、スズランさんも同様。
スズランさんは守られる側だけど、ヤスカネさんの娘ということもあって一応戦えるんだろう。
それ故に警戒しているんだろうな。
まあ、スズランさんが戦わなければいけないような事態になる前に逃げるけど。
わざわざ護衛対象を危険に晒すなんてありえないからな。
馬車を出て何が来るのかと待ち構えていると3人の冒険者……? 武芸者……? 分からないけど、和装に防具をつけた3人組が飛び出してきた。
なんなんだ?
そう思っていたけど、その3人組は脇目も振らず俺達の隣を通り過ぎてそのままどこかに行ってしまった。
本当になんなんだ?
「魔物。数は1。多分……強い。」
リリンの宣言で理解した。
さっきの3人組はリリンの言う魔物に追われて逃げてきたんだと。
そしてそれを俺達に擦りつけた。
所謂トレイン。
3人組はそんなつもりはなくただ闇雲に逃げていただけという可能性もあるけど、今はそれどころじゃない。
何が来るのか分からないが、リリンは強いと言った。
つまり、それなりの高ランクの魔物という事だ。
一体、何が来るのか……。
「ガアァァァァァァァ!」
飛び出してきた魔物は猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾を持つ大型の魔物。
「鵺……だと!?」
そう、鵺だ。
まさか実在したとは……。
まあ、ここ異世界だけど。
鵺はかなり有名な妖怪だと言っていいだろう。
能力が全部日本のと同じだとは思わない方がいいだろうし、何よりリリンが強いと言ったのだ。
気を引き締めていかないと、やられかねない。
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