第1074話 旅の仲間に加わったとさ。的なお話

声がした方を見ると、なんとなーく見覚えがあるような無いような、そんな気がする人が馬に乗って駆けてくる。

ひょっとして本当に何か忘れ物でもしたか?

それとも、この人の事に気付いて追いかけて来たとか?

どちらにせよ、これでこの人を連れて行かずにすみそうだ。


「間に合って良かった……。」

「えっと……。」

「オキフネです、レント殿。ヤスカネの息子です。」

「ああ、ヤスカネ様の。それで、どのような用件でしょうか?」

「そこにいる愚妹の件で少々話がありまして。」

「連れ帰ってくれるのですか?」


そうだよね?

普通に考えたらそうだよね?

だってこの人、何故か人の馬車の下にへばりついていたけど、一応こんなんでも大名の娘だからね。

どう考えてもそうホイホイで歩けるわけないよね。

それに、こんなどこの馬の骨とも知れない奴と同行するなんて認められないよね。

普段から英雄演舞が好きだって言ってそうだし、こういう行動に出るのも予想がついていたんだろう。

だからこうしてオキフネさんが追いかけて来れたんだ。

そうに違いない。

いやー、助かったー。

スズランさんを連れて行くわけにも行かなかったから、本当に困ってたんだよね。

でもこれで心置きなく京とやらに向かう事ができるよ。


「まずはこちらをお読みください。」

「はい。」


『レント殿へ

今そちらには私の不出来な娘が居る事と思います。その娘はレント殿に着いていきますという書き置きを残して姿を消しており、至急この手紙を息子に持たせ後を追わせた次第です。つきましては、迷惑かと存じますが、娘を連れて行ってはもらえぬだろうか? 連れ帰っても隙を見て抜け出さぬとも限らぬ故、腕の立つレント殿に同行させて欲しい次第です。無論、引き受けていただけるのであれば娘の旅費や京での滞在費及び諸経費、そしてレント殿への謝礼は用意しております。どうかご一考願えぬだろうか?

ヤスカネ』


といった感じのことが書いてあった。

実際はもう少し横柄というか、それなりの地位がある人間の書く文面になっていたけど、要約するとこんな感じになるだろう。

……これであってるよな?

ちょっと不安だけど、そんなにニュアンスに差は無いし、きっと大丈夫だ。


「どうだろうか? 一応護衛依頼としての書類も用意してあるし一考願えぬだろうか? 手紙にも書いてあるだろうが、勝手に抜け出されても困るのでな……。」


どうやらこのスズランさん、結構なおてんば姫らしい。


「仲間と相談してもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。」

「では少し失礼します。」


はぁ……どうしたものか。

個人的にはあんまり受けたくないけど、手紙も書かれて大名の息子がその手紙のメッセンジャーでしょ?

断りづらいよ。


「というわけなんだけど、どうしよう?」

「手紙にはなんて?」

「あ、見る?」

「うん。見せて。」


そういえば読んだのは俺だけでしたね。

呼ばれたのも俺だけだったし。


「うーん、今回の事もそうだし、この手紙の事もあるし、受けてもいいんじゃないかな?」


まず最初にセフィアが読み、そう答える。

みんなも回し読みしていき、読み終わるたびに似たような事を言う。

まあ、まさか馬車の下にへばりついてくるとは思わないし、そんだけ行動力があるとなると、この手紙の信憑性というか、書かれてる事を実際にやりかねないと思うよなぁ。

そんで、一度知り合った相手が自分達を追いかけた挙句、なんらかの事件や事故に遭遇なんてなったら……それは気分が悪いよなぁ。


「この話、受けさせてもらいます。」

「ありがとうございます。感謝します。」


ありがとうも感謝するも同じ意味だよ。

どんだけ喜んでんだよ……。


こうして、大名のおてんば娘スズランが旅の仲間に加わったとさ。

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