第1065話 ヤマト服で着せ替え人形は勘弁して欲しいからな。的なお話
ヤマトの呉服屋にやって来ました。
道案内を頼もうとしたユキノは知らないとの事なので道ゆく人に尋ねておすすめの店を聞いた。
「すまないな。案内出来ればよかったのだが、服は自前の物があったので寄る理由がなかったのだ。」
「気にしてないよ。他国ならまだしも自国内で必要以上に服を買う必要はないしな。知らないのもしかたないさ。」
実際は住んでた所とは地域が違うのだから、服の特色が違うということもあるし買う意味がないとは言わないだろう。
しかし、ユキノがここに滞在した理由は英雄候補勧誘員だっけか?
やっと覚えた。
その英雄候補勧誘員としての仕事として国外に行くためだ。
国外に行くのが分かってるのに予備の服を用意しないなんてアホな奴まず居ないだろう。
現地調達する必要もあるだろうけど、だからといって用意しないなんて事はない。
船で1週間かかるのに同じ服だけ着るのもどうかと思うのが普通だしな。
そんなわけで事前に用意するのが普通。
さらにユキノはアイテムボックス持ちで服の備蓄は十分可能。
そりゃ服屋に寄る理由なんてないだろう。
「それよかはよ服見んべ。」
「それもそうだな。」
えー、スルーですか?
なんも反応がないと寂しいんですけど。
店の中に入り服を探す。
甚平、作務衣は……
「あ、これ、凄く手触りが良い……。それに色も凄く綺麗。」
「そうだろう? ヤマトの反物は手触りはもちろん、柔軟性、通気性、色彩、柄と全てにおいて妥協を許さぬ職人芸によって作られている。通気性に関しても冬などの寒い時期には反物の密度を上げて気密性を保持して保温力を高めたものもある。それ故に国内はもちろんのこと、国外でも高い評価を受け高級品として通っているのだ。」
そう言うユキノの顔はすごく誇らしげで褒められたのが嬉しくて仕方ないって感じだ。
だけど、何故そこまで自慢げなのだろうか?
俺だって、以前日本にいた時は国産の物が褒められたり、日本の職人芸が認められたりしてると嬉しくなったりはしたけど、ここまでじゃなかったはず。
ひょっとしたら気付いてなかっただけで、ここまで嬉しく感じていた可能性はあるだろうけど。
「なんでユキノがそんなに嬉しそうなんだ?」
「それは、私の家が治める地の特産が反物だからだ。家の物が褒められれば嬉しいのも当然であろう?」
「納得した。」
いわば身内の品だ。
そりゃ嬉しいだろう。
そして無駄に詳しかったのもそれが理由か。
自分ところで作ってるんだから知ってて当然というわけだ。
「ねぇ、レント。これとかどうかな?」
「1つ質問いいか?」
「いいよ。」
「なんで、男物なんだ?」
「そりゃレントのを選んでるんだから男物なのは当然じゃない。」
「普通、まずは自分のものから選ぶべきじゃないかな?」
「え、そうかな? まあいいじゃない。どっち先に選んでもさ。」
「そうなんだけどさ、この手の服って、着るのに時間がかかるんだよ。それになれてないと難しいだろうし。だから俺のを選んでるとセフィアのを選ぶ時間が無くなるんじゃないか?」
「そうなの?」
「そのはずだ。そうだろ、ユキノ。」
「む? ああ、そうだな。初めてだと自分で着ることすら出来ないだろうな。」
「そんな服あるの?」
「王族のみ着られる物の中には他者の助けがなければ着られぬし物もある。一般市民向けの物は簡単だがそれでも着方を知らなければどうしようもないだろうな。」
「へー、そうなんだ。」
王族のみってなんだろうな?
十二単かな?
「とまあ、そんなわけで、俺のよりもまずは自分のから選んでくれ。俺はまあ、作務衣とか甚平とか探してるからさ。」
「むぅ……分かった。」
ふぅ……。
良かった。
これで着せ替え人形は回避出来た。
ヤマト服で着せ替え人形は勘弁して欲しいからな。
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