第1064話 ひょっとしたら売ってないかも。的なお話
すき焼き定食……じゃない。
牛鍋定食は見た目通りの味をしていた。
それはつまりなんの意外性もない普通の味のはずなんだけど、何故だろうな?
不思議とこみ上げてくるものがある。
ああ、この味だよ……。
「ね、ねぇ、レント……本当に大丈夫なの?」
「何が?」
「何って、生の卵の事だよ。それに、レント泣いてるし。」
「え、嘘?」
セフィアに言われ、頬に触れて気付く。
本当に、涙が流れていた。
きっと、それだけ染み入るものがあったんだろう。
そういえば、日本ではすき焼きってご馳走だったな。
冬に鍋となれば寄せ鍋とかが定番で、最近だと色々と鍋つゆとか売ってたりしていろんな味が楽しめる。
だけど、不思議とすき焼きはご馳走って認識なんだよな。
その時の事を思い出してしまうのかも。
「ご馳走様でした!」
心ゆくまで堪能させてもらいました。
いつの間にか3人分の器が俺の前に並んでいるけど。
そして蒼井とアカネの前にも同じだけ並んでる。
うん。
意識していたわけじゃないけど、気付かぬうちに追加注文をしていたみたいで、本当にいつの間にか。
ふむ。
しかし、すき焼きか……。
確か割り下を使うのが関東風で先に肉を焼き、そこに醤油と砂糖で味付けをし、肉の脂の旨味と味付けのタレで野菜などを焼くのが関西風だっけ?
醤油も、砂糖もあるし、鰹節も味醂もあるから関東風、関西風の両方が作れるだろう。
後は生卵だけど、養鶏でもするか?
いや、それよりかはどこか養鶏場と話をつけて新鮮な卵をいつでも購入出来るようにした方がいいか?
その辺は帰ってから相談したほうが良いか。
案外、アデルが鶏とかの飼育もしてるかもしれないし。
「レント? どうしたの?」
「いや、ちょっと考え事を……。」
すき焼きのこと考えてましたとは言い難い。
だってさっき食べたばっかりだし。
「それよりも、次どこ行くか決まった?」
「やっぱり服が見たいかなって話になったよ。ヤマト服独特でかわいいからね。」
「そうか。まあ、俺もちょっと欲しい服あるし。こっちにもあると良いんだけど。」
「え、レントが!?」
「そんな驚くほどか?」
「そりゃだって、普段だったら全部僕達に任せてるじゃない! 買うのはもちろん、着る服を選ぶのも! そんなレントが自分で欲しいなんて言うんだよ!? 驚くに決まってるじゃない!」
「あ、うん……そうだよな。」
言われれば反論の余地がなかった。
普段から俺、大量生産最高ってタイプだから。
個性よりも無難、無駄に目立つようじゃなければそれで良いって考えてるし。
「えーと、一応向こうでは作務衣って言うんだけど……ラフなタイプのヤマト服って感じかな。あっちでも服には頓着しなかったから持ってなかったんだけど、甚平とか作務衣にはロマンというか、憧れていたんだよね。だから欲しいなって。」
「甚平って?」
「甚平は作務衣の半袖バージョンって感じの奴。」
「へー、そうなんだ。その作務衣っていうの、女の子向けのもある?」
「向こうにはあったと思うけど、こっちだとどうかな?」
「そっか。世界が違うもんね。売ってるか分からないか。」
「その通り。とはいえ、店に行って見ないことには分からないから、早速向かおうか。」
売ってるといいんだけど、どうなんだろうな?
謎の副音声現象も起きてないし、ひょっとしたら売ってないかも。
それはやだなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます