第1044話 やってよかったかな。的なお話
ーーカーンカーンカーンカーン!
「出航ー! 出航ーー!!」
鐘の音と、出航という言葉が聞こえた。
それに合わせるように船が微かに揺れ窓から見える景色が動いていく。
船旅ってもう少し揺れると思っていたけど、実際はそんなでも無いんだな。
「さて、船が動き出したわけだけど、これからどうする?」
「そうだな〜……レントはどうするの?」
「俺は、これを仕上げたい。」
「あ、これってお守りの奴?」
「そうそう。全員分だから時間がかかるし、これまではまとまった時間がなかなか取れなかったからこの機会にやっておこうかなって思ってね。」
後何故か、急いでやらなければいけないという、謎の焦燥感というか、強迫観念というか……なんかそういうのを感じてる。
でもそれをわざわざ言う必要はないと思うから言わないけど。
「うーん、それじゃああんまり邪魔をするのもなぁ……。じゃあ僕は適当に船を見て回ろうかな。さっき案内してもらったけど基本的な所だけだったし。ついでにアルバ達の様子も見てくるよ。」
「あ、そっか。あいつらも初めての船旅になるしびっくりしてるかもしれないのか。なら、頼むよ。」
「うん。任せて。」
「……リリン。それは、また後でしようか。」
「……ん。」
リリンさんや。
なんでまだお昼前なのにそんなもの取り出してるんですかね……?
せめて夜になってからにして欲しい。
「私も船の中見てきますね。ほらリリンさん、行きましょう。」
「ん。」
ルリエがリリンを連れてってくれたし、早く終わらせないとだけど、無理に急ぐと荒い仕事になってしまうし、急ぐけど、でもしっかりと落ち着いてやろう。
セフィアのは茶色、リリンは水色、ルリエは赤、シアは金……いや、黄色か。
流石に金色は高いらしい。
ルナは紫、アカネは赤なんだけど、それだとルリエと被るし……アカネ、か。
よし、茜色にしよう。
レイダさんは緑。
蒼井とユキノはどちらも黒髪なんだけど……ユキノの方は目の所を赤く塗ろう。
ルナが絵を描くのに使っている道具を借りてひたすらに塗っていく。
手が汚れてしまうと他の奴を塗るときに色が付いてしまう。
だからそれを避けるために細工をする為の工具を使って固定し、色を塗り終えた後は工具を拭って色が付かないように配慮をする。
そうして作業を続けることはや2時間。
後はこいつの目を赤く塗って……よし、終わったー……。
「んぅ〜……はぁ。」
あー、疲れた。
肩、首、腰がバッキバキだ。
動かすだけでバキバキいうわー。
後はこいつらが乾いた後で軽く削って、そこに名前を彫って、そんでその塗った色と同じ色で名前を見やすくしたら完成だ。
でもまあ、とりあえずまずは手を洗ってからお昼だな。
「あ、レント。もういいの?」
「みんな? ひょっとして外で待たせちゃったか?」
「あー、うん。少しだけね。」
「そうか。なんか悪いな。」
「別にいいよ。それよりも、もう終わったの?」
「ひと段落ついた所。後は名前を入れるだけだからそんなに時間はかからないと思うぞ。」
「そうなんだ。楽しみにしてるね。」
「ああ。」
楽しみにしてると言われるとちょっとプレッシャー。
色塗っただけだからそんな楽しみにされるとちょっと困る。
お昼はアイテムボックスとかアイテムバッグとかそういう便利なものがあるお陰か、この手の話に良くある、食事は保存の効くもののみ使うなんてこともなく、ふっつうに美味しいものが出てきた。
魚がメインなのはひょっとしたら釣り上げたから?
いや、流石にそれは無いか。
海洋国家から出たから魚が安く手に入ったってだけだろう。
その後名前も彫り、無事に完成。
お守りをみんなに配った。
みんな喜んでくれている。
普段ならこういうとき軽くブー垂れる蒼井が何も言わずにいるのはちょっと変な感じだけど、まあ、気に入らないわけじゃなみたいだし、やってよかったかな。
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