第1002話 見たいに決まってるじゃないか。的なお話

「ん? というか、それってつまり、海狩人って釣りとか漁をするわけじゃないの?」

「する事もあるけど、獲物によっては海の中で仕留めるぞ。」

「海の中で!?」

「そうだけど?」

「そうだけどって、なんでそんな軽く言えるんですか……。」

「つっても、海狩人にとってはそれが普通だからなぁ。」

「海に潜るって言っても、それ息続かないでしょ。どうするんですか?」

「それなら酸素ボンベっていう道具があるから。」

「あんのかよ! 酸素ボンベあんのかよ!」

「お? 酸素ボンベのこと知ってんの?」

「え、いや、噂というか、名前だけですけど……。」


嘘ではない。

ほんのちょこっとだけ真実をボカしただけだから。

実際、実物を肉眼で見たことはないし。

ダイビングなんてもちろんやった事ないし、水族館にも行った事ないから飼育員が酸素ボンベ背負って作業しているのを見た事はない。

でもまあ、アニメやドラマ、バラエティなんかでは出てくるから知らないわけじゃない。

だから、嘘ではない。


「なんか、昔漁業の天才って呼ばれた人がいて、その人が発明したとかなんとか。後は船に使われている推進用魔道具や漁の仕方なんかを開発したって話。その功績を讃えられて爵位を賜り王家の末娘を与えられたとかって話だけど、その辺は疑わしいよな。」


何それ?

それってどこのなろう小説だよ。

というか、なろうでもそんなのやんねーぞ。

とはいえ、それはどう考えても転移者……いや、転生者かな?

どっちでもいいけど。


「で、その天才さんの発明品はそれ以降その貴族家の専売特許となって販売はその家の傘下の商会のみ、開発も修理もその関係者だけなんだよ。ボンベに空気を入れるだけでもその商会に頼まなきゃいけないんだから、ボロい商売だよなぁ。まあ、そのせいで今じゃ悪どいだけのろくでなし貴族になってんだけどな。あ、この話はこれな。知られたらヤバイし。」


黙ってろってことね。

指を立てて内緒ってやるのが妙に様になって……焼けた肌と短髪が快活な印象を与えるからなのだろうか?


「と、そろそろ家に着くぞ。」


ローレムさんの家は木造二階建てで結構大きい。

木造なのが特徴ではあるが、それよりも目立つのが大きな扉がついていてその中に大きな石製の台が見える建物。

一見すると倉庫だけど中の台から察するに解体場ではないだろうか。

自分の家に解体場があるって凄いことじゃないだろうか?


「さ、上がってくれ。誰もいないから気遣いとかは必要ないからな。」

「え、誰も……いない?」


さっきローレムさんはぽっと出の私と言っていた。

つまり元々海狩人になる予定はなくて、でも海狩人になっている。

海狩人は海の冒険者みたいなもので、冒険者はすぐに稼げる職業の代名詞でもある。

そして家族はいない。

そこから考えられる答えは、両親は既に亡くなっていて、生きていく為には海狩人にならなければならなかったのではないだろうか。


「私もお上りさんだからな。両親は多分今も南の街で漁師をやってるはずさ。」


そんな事はなかった。

ごくごく普通の上京さんでした。


「私はこれから解体をするからその間ゆっくりしていってくれ。」

「あ、折角だからその解体の様子を見させてもらえませんか?」

「別にいいけど……あんま気分のいいもんじゃねーぞ?」


だってマグロの解体だよ?

それも10メートルクラスの化け物マグロ。

そんなの見たいに決まってるじゃないか。

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