第988話 そういう風にも考えないで欲しいです。的なお話
「……少年はさ……」
「なんで少年? 俺女だって言ったよね?」
「さっき言ってただろ。男のフリしてるって。それよりもさ、少年はなんで街案内を言ってきたんだ? ミスリアさんの店を手伝うとかさ、弟子として教わるとかさ、そういう道もあったんじゃないか?」
「店をやってても、生活が安定してる訳じゃないんだよ……親方もさ、そう言ってくれた事もあったよ。でも断った。俺みたいな素人じゃたいして役に立たないし、それなのに負担をかけるなんて、出来ないよ……。親方が助けてくれたから、俺は今こうして生きていられる。だからこそ親方に迷惑をかけたくないんだ。」
立派な事だ。
立派だけど、まだこんなに小さいんだから、大人に甘えてもいいと言ってあげたい。
でもそれは、甘えさせてあげられる大人が側に居なかった証拠でもある。
……俺は、どうしたいんだろう?
この子を助けたいとは思うけど……なんだか、考えるのが面倒になってきたな。
偽善だとか、自己満足だとか、そんなことを考えるのがすごく面倒だ。
ならもう、やりたいようにやろう。
それで後悔する事があるかもしれないけど、いまここでグダグダ考えてるよりかはマシだろう。
結局後悔する可能性があるのなら、好きなようにやってやるさ。
最悪の場合にはならないと信じよう。
「少年、もっと先へ加速してみたくはないか?」
「……え? 急にどうしたの、お兄さん?」
「……ごめん、今のは忘れて。」
恥ずかしい。
少年って言った時、ふとこのセリフが浮かんだ。
浮かんだと思った時には既に口からこぼれ出ていた。
「少年はさ、ミスリアさんの店で教わる気はない?」
「何言ってんだよ。さっき断ったって言っただろ。それに、迷惑なんてかけられないって。」
「うん。だからさ、俺がミスリアさんに依頼をするんだよ。少年に色々と教えてやって欲しいって。つまり、俺がミスリアさんを雇って、少年はそこで技術を習得する。要はミスリアさんを少年の家庭教師にするって話だよ。」
「なんで……なんでそこまでしてくれるんだよ。俺はまだ何にもしてないのに、それなのにどうして!?」
「簡単な話だよ。俺が見てられなくて、見捨てたら後味悪いって思ったから。」
偽善? 自己満足? そんなの知った事か。
偽善だろうが、自己満足だろうが、それで救われる人が居るのなら、なんだっていいじゃないか。
何もしないよりかは何百倍もマシだからな。
「なんだよそれ……ばっかじゃないの……。でも、ありがとう……。」
え、泣く要素なんて無かったと思うんだけど……まあ、いいか。
「それよりも早く戻ろう。お昼全然食べられてないしな。」
みんなの元に戻ってお昼の続きをするが、流石に時間が経ちすぎていて冷めてしまってあまり美味しくない。
それでも少年的には十分すぎるほどのご馳走のようだけど。
俺はまだ食べ足りないので少しだけ追加注文をして、その間にさっきまでのことをみんなに話す。
勝手な事をしすぎと文句を言われるかなと思ったけど、そんな事はなく「それ良いと思うよ。」というお言葉をいただけました。
さっきの少年の話からミスリアさんへの報酬はお金よりも食料を多めにしようと思う。
アイテムボックスは持っているみたいだったから出来る事でもあるけど。
それよりも問題なのはみんなの目。
あれ、新しい仲間になるかどうか見定めようってアイコンタクトし合ってるよね?
そんなつもりないですよ。
そりゃこの話にはもう1つ、ミスリアさんを支援するっていう思惑も混ざってたりはするけど、それだって応援したいからっていう純粋なる善意によるものだから。
だから、そういう風に考えないで欲しい。
「もしかしてあんたって、両刀……?」
蒼井さんや、そういう風にも考えないで欲しいです。
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