第907話 リィナさんと話せないのはおかしくない? 的なお話

乾杯の後アベルさんはごくごくと一気に飲んでいく。

対して俺はそこまで一気に呷ったりはしないでチビチビと飲んでいく。

いや、お酒を飲めないわけじゃないし、割と強い方だとは思うけど、なんか微妙なんだよなぁ……。

ああ、そっか。

なんだかんだで飲む時は基本アデルと一緒か。

だから美味く感じないんだ。

いつも居る人が居ないから。

はぁ〜、やっばいなぁ……半月でこれかよ。

寂しがってんのは俺じゃねーか。

離れている時間が想いを強くするとか言うけど、本当だったんだな。


「ちゃんと飲んでるか?」

「一応……それよりもアベルさん、ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」

「いいぜ。言ってみな。」

「実はクルトに恋人が出来たんですけど……「は? え、ちょっと待て……え、何? あいつ彼女出来たの? いつ?」」


ありゃ?

知らなかったのか?

なら聞こうとした事も無くなっちゃったな。

あいつの彼女、マックスと名乗ってた奴だけどそのことを知っていたか、とか、いつ頃からそういう関係だったのかとか、ちょっと気になったんだよね。

リステルに来たのは狩猟大会目前でその後に報告を受けたからてっきりカインで告白したのかと思ってたんだけど……違ったのか。


「いや実はあいつのパーティメンバーにマックスってのが居たんですけど、実は女でそいつから告白して付き合うことになったって聞いたんですよ。だから知ってたかなって、ちょっと気になったんですけど……初耳だったみたいですね。」

「そりゃそうだろうが! え、てかあいつが実は女で、今は付き合ってる? 何その小説みたいな展開?」

「嘘みたいですけど本当なんですよね……。」

「はー、世の中色々あるもんだな。こりゃ帰って来たら思い切りからかってやらないとな。」


クルト、ご愁傷様。

ま、自業自得か。

近況報告なりで手紙とか出していたらまた変わっていたかもしれないけど、そんなことはしてなかったみたいだしな。

ちなみに俺は手紙なんか一切書いてない。

というか、書く相手がいないというか……家族、みんな日本にいるからねぇ。

突然寂しくなって手紙を書いてアリシアさんに届けてもらおうと考えた事もあったけど、一晩寝たら寂しさとか消え失せて書いていなかったし。


「まあ、あいつの事は置いといて、迷宮都市ってのはどうなんだ? やっぱこことは違うのか?」

「そうですね……まずギルドがデカイです。他には魔道具とか武器とか防具とか、そういう冒険者を対象とした店が多いですね。」

「そうなのか。ダンジョンの方はどうだ? 何かいいもの見つけたか?」

「いやー全然ですよ。色々あってまだ20階層までしか行けてませんから。」

「そんなにキツイのか?」

「いや、キツイっていうか……ほとんど街で訓練してました。」

「何してんの……?」


マジトーンで言われると本当に呆れてるって思うよね。

というか自分で言っててもそう思う。


「シアの再従姉妹がギルドマスターしてて、それでなんか流れで教わるようになりましてね。相手はSSランクでまたとない機会ですから、そりゃ訓練しますよ。」

「SSランクとかマジかよ!? 俺だってその立場なら訓練ばっかしてるわ。というか羨ましすぎだろ!」

「運が良かったです。」

「……そういや、いつの間にか人数増えてるけど、軽く紹介してくれるか?」

「普通それ最初にしません?」

「まあそうなんだけど、別にいいじゃねーかそれくらい。」


既に知ってる人は除外してシアとルナ、そしてユキノの説明を軽くしておく。

シアとルナは前に少しだけ会った事もあるけど、基本は知らないだろうという配慮。

その説明でアベルさんはああ、あの試験の時の子達か、と思い出したようだけど。


てか、なんで俺ずっとアベルさんと話してんだろうね?

座ってる席順的にそうなるのも仕方ないけどさ。

だってアベルさん真正面だし。

でも誘ってくれたリィナさんと話せないのはおかしくない?

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