第894話 そりゃあるわけないですよねー。的なお話

適当に遊んでいるとリリンが1抜けしそうになった。


「そういえば、今夜の事だけど……」

「……?」

「ここ人の家だし、今夜は無しで。」

「っ!?」

「あ、ダウト。」

「ひ、卑怯! それは卑怯!」

「いや、そんな動揺するようなものでもないだろ……。」


今やってるのはダウト。

1から13までのカードを裏向きで順番に出していき手札が全部無くなれば勝ちというゲームだけど、当然手札に都合よく宣言すべき数字と同じ数のカードがあるとは限らない。

いかに嘘を混ぜて全部のカードを無くすかが鍵なのだが……まさかあの程度で揺らぐとは。

リリンが、という所でまだ言ってなかったなと思い出して言ったのだが、可哀想なことしちゃったかな?

いや、あの程度で動揺する方が悪いか。


そしてリリンが取りこぼしたカードは3。

リリンが出さなければいけないカードは7。

となれば当然ダウトと言わざるを得ない。

俺じゃなくても別の誰かが言っていただろうしね。


沢山溜まっていたカード全てを引き取ったリリンが怒涛の追い上げを見せたが、結局数が多過ぎて捌ききることができずにリリンがビリになった。

なんだか凄く珍しい光景。

こうなると、少し前に起きて今遅めのお昼を食べている蒼井はちょっと勿体無い事したな。

普段なんだかんだで勝っていくリリンがビリな姿を見れないわけだし。


「もう1回!」


悔しかったリリンが再戦を望むのでそのまま次のゲームを行う。

その再戦で運良く俺の調子がいい。

このまま勝利へ……と行きたいところだけど、ここでダウト宣言されたらアウトだ。

ラス1は必ずダウト宣言されるから最後は数字のカードを残しておきたい。

だから、このカードが通るかどうかで勝負は決まる。


「そうだ。私も言わねばならぬ事があった。近いうちに私はヤマトに帰るぞ。」

「は?」

「ダウト。」

「あ……。」


ユキノに俺がリリンにした事をされた。

内容が内容なだけに動揺してしまい俺もカードを取りこぼし、そしてリリンにダウト宣言されてしまった。

これが因果応報という奴か……。

そのままリリンが勝ち抜けてしまった。

というか、1位かよ。


「と、そんな事より、帰るってどういう事だよ!?」

「実は私は元々とある使命を帯びてヤマトを出てきたのだ。」

「使命?」

「ああ、その使命は国からの指示で必ず達成せねばならない。使命を放棄すれば実家にも迷惑がかかるしな。というわけでレント、私と一緒にヤマトへ来てくれ。」

「はぁ!? なんで!?」

「私の国にはある1つの祭りがある。名を封竜祭。読んで字の如く、竜を封じた事を祝う祭りだ。詳しい話は省くが、昔ヤマトに災厄をもたらした竜がおり、当時世界を旅していた青年が竜に深手を負わせ、当時の巫女がその悪しき竜を封印したのだ。その時の偉業を後世まで語り継ぐ為に行われているのが封竜祭だ。その封竜祭は最初は毎年だったが、ある事情により4年に1度行われるようになった。」

「4年に1度って、オリンピックかワールドカップかよ……。」

「オリ……世界の盃? なんだそれは?」

「いや、なんでもない。続けて。」


なんか、ワールドカップが変な風に伝わった。

いやまあ、直訳するとそうなるかもしれないけどさ……。

この辺は元々その概念がないが故の弊害って事なのかな。


「ある事情というのも、封竜祭の目玉である若き英雄と巫女による竜封印の様子を再現した演舞が原因だ。最初の頃は国の若者が選ばれていたが、やはり史実に忠実に、という考えが広まり英雄役を国外から招待し演じてもらうという事になったのだ。だが、毎年相応しき者を見つけ出し招待するのは厳しく、自然と期間が延び、現在の4年に1度という形になったのだ。」

「なるほど。それで、その封竜祭とヤマトへ行くっていうのはなんの関係があるんだ? それに、使命についても話のどこにも無かったぞ。」


多分、そういう事なんだろうけど、一応聞いておかないと。

ひょっとしたら別に選ばれた人間がいて、俺はただ単に普段一緒に活動しているからこの機会に家族に紹介したいとかの可能性もある。

冒険者なんて危険な仕事をしてるんだから、親としても一緒に活動している仲間がどんな人物なのか気になるだろうし。


「私の使命とは、その封竜祭における英雄役候補を見つけ出し国に連れて行く事だ。そして、私が選んだ候補とはレント、お前の事だ。」


ですよねー。

なんか、分かってましたー。

話の流れで別の男を連れて行くとか、そりゃあるわけないですよねー。

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