第840話 スライムの話はしないようにしよう。的なお話

危険性が低いとはいえ、油断はいけない。

さっきの人形ゾーンのように、罠単体では危険度が低くても他の要素と噛み合うと危険度が増す可能性もある。

だから危険度が低いからといって油断してはダメなのだ。


「どうだ、リリン。」

「んー……分からない。」


リリンが分からないとなると、俺達ではお手上げだな。

あの宝箱がめっっっっちゃ! 怪しいけど、確証は持てない。

あれが単なる餌だという可能性もある。

いや、餌なんだろうけど、あれ自体が罠で部屋には何もない可能性もあるわけで、迂闊に踏み込めない。


「そういえば、ナタリアさん達はここに入った事はないのか?」

「いえ、ありませんわ。そもそもここは必ず通らなければいけないというわけではありません。危険性が分からないのにわざわざ罠の真っ只中に突っ込むのは下策中の下策ですから。」

「デスヨネー。」


まあ、そうだよね。

誰がどう見ても罠で、あれに何も考えずに喜んで飛びつくような阿呆は長生き出来ないだろう。


「ですが、今回は危険性が低いと分かっていますから。であるならば取りに行くというのも選択肢の1つかなと。もちろん警戒は厳に、ですが。」

「当然ですね。危険性が低いとされてても罠なんだから。」


うむ。

まだ言葉遣いが安定しないな!


リリンが分からないというのだから、少なくとも入り口付近には罠はないのだろう。

なので慎重に少しずつ部屋の中へ。

そして何もないまま宝箱の前まで来てしまった。

まさか、意味深な配置で警戒させて精神的に疲弊させるのが目的なのか?


ーーガコン!


「あ……ごめん。」


蒼井がスイッチ的なのを踏んだ。

何かが起きるな、これ。


ーーヒュッ……ビタン!


おお!?

背後に何かが落ちた音がしたぞ?

今回はそういう系か?

それに音が大分水っぽい感じだし、もしかして……やっぱり

なんだよ、スライムかよ。

スライム程度じゃ危険度は低いとなっても不思議じゃないな。

というか、お呪いがあるからこその危険度なのか?


「ロックプレス!」


ビスカさんが魔法を発動させ、スライムの左右に出現した四角い大岩が万力のように挟み、そのままグチャッと潰してしまった。

なんという早業……。

やはりアレか?

女性だしスライム死すべし! 慈悲はない! とか思ってるのか?


「スライムは敵。全て滅ぼす。」


思ってたよ。

とはいえ、これでもう終わりか。

後は宝箱を調べ……


ーーガコン!


「へ?」


ーーヒュッ……ビタン!


あら〜、1つだけじゃなかったのね……。


「剛鎚覇岩!」


ズガン! と、再びビスカさんが魔法を発動。

岩で出来た巨大な戦鎚をスライムの真上から落として粘体も核も何もかも粉砕し、床すらも大きく揺さぶる。

うーわー、スッゲー威力。

どんだけスライム嫌いなのさ。

あれか?

駆け出しの頃にスライムに襲われた……うん。

この想像はいけないな。

めっちゃエロ……いや、ダメだダメだ。

女騎士とスライムとかそんな想像しちゃダメだ。

使ってるの槍だけど、見た目女騎士だし想像するのは非常に良くない。

知り合いで想像とか失礼すぎる。

でも破壊力が……。


俺がいけない想像と戦っている間、ビスカさんの戦いも続く。

床にあるスイッチ的なのを踏むとスライムが降ってくると理解したのか、部屋中を歩き回り、ガコンと踏み抜けばスライムを潰し、潰しては踏み抜き、踏み抜いては圧殺と、ひたすらにスライムを殺していく。


あれだね。

誰にでも地雷はあるってことだね。

そしてビスカさんにとってはスライムが地雷。

……今後ビスカさんの前ではスライムの話はしないようにしよう。

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