第773話 偶は良いよね。的なお話

ギルドを後にした俺達は特に何処かへ行くという目的もないけど、ギルド前にずっといるのも邪魔だろうし、とりあえず離れておく。


「さて、それでレントさん達はこの後どうするつもりですの?」

「まずはアカネ達に伝えるべきかなって思ってます。」

「そうですわね。アカネさんも寝耳に水でしょうからきっと驚くでしょうね。」

「だと思います。」

「そっちは何か予定が?」

「いえ、特には。ただ、人によっては整備に出していた装備を受け取ったりする者もいると思いますが。」

「あ! そういえば防具のメンテ、お願いするの忘れてた。」

「何やってるんですか……。」

「あはは……色々あってつい……。」

「ついって……ふぅ、全く。今後は気をつけてください。知り合いに死なれては寝覚めが悪いですから。」

「はい。気をつけます。」


それもこれも面白い提案して来たレイダさんが悪い!

……いやまあ、忘れっぽい俺が悪いんだけどね。

アレやろうってふと思っても、何か別のことをするとよく忘れちゃうんだよね。

なんとかならないかな、これ。


「あまり長く足止めしてはアカネさんに悪いでしょうし、私達はこれで。それに、他にもやり忘れた事とかありそうですしね。」

「あはは……。えと、また明日。」

「はい、また明日。」


他にも……何かあったかな?

あるようなないような……分からないけど、何か後ろめたさを感じてしまった。

……あれ?

そういえばお魚って、注文したっけ?

してないような気がする……。

いや、あれは欲しくなったら一緒に買って来てもらうって話で、宿住まいだったからまだ必要なかっただけだし、うん。

何も問題ない!

……誰か代わりに注文して来てくれないかな?


一旦宿に戻りアカネ達に一緒に護衛をすることになったと伝えると、蒼井が難色を示す。

まあ、こいつはこういう反応をすると思ってたけど。


「今回は1日だけだし、それに天装さんと黒狼さんも一緒だからそんなに面倒じゃないって。精々お昼時の列の整理と、拠点に近づいて来た魔物を倒すだけだって。そっちのメインは天装さんと黒狼さんだから、むしろ暇すぎるくらいだって。」

「…………はぁ。まあ、アデラードさんから言われたんじゃ断れないか。」

「そうそう。」

「それじゃ、準備でもしますか。何がいるの?」

「切り替え早いな?」

「ま、長々と駄々をこねたって何も始まらないし。」

「駄々だと分かってたんだな。」

「うっさい!」


そんなわけで準備をすることになったんだけど……特に何もないんだよなぁ。

テントとか食材とかは基本的にギルドが用意してくれてるし、何か厄介な魔物と戦うわけでもないから対策用のアイテムが必要ということもない。

さて、どうしたもんか……。

ま、適当に街を見てみるか。

それ見て何か気づくかもしれないし。



これが必要というものは特に無かったが、こうして街を見て回れば色々と買うものがあったりするもので、今現在も新たに購入していく。


「人参と、ジャガイモと、玉ねぎに、キャベツ……後はカボチャも貰おうかな。」

「毎度! いつもたくさん買ってくれてありがとね。」

「いえいえ。僕達は大所帯ですから。」

「だとしても贔屓にしてくれるのは嬉しいもんさね。それがこんなに可愛い子だと尚良い。」

「可愛いだなんて、そんな……。」

「謙遜しなさんなって。ほら、愛しい旦那も誇らしそうにしてるじゃないか。」

「うぅ……ありがとうございます。」


ま、明日の護衛には全く関係ないものだけどね!

でも、こうして可愛いセフィアの姿が見れるのだからこういうのも悪くはない。


八百屋を後にして、肉屋に乾物屋、調味料を取り扱っている店と回っていく。

別に足りないわけではないが、容量無限のストレージがあるから多くても困らない。

それにいずれダンジョンに潜るわけだけど、階層が増えるほどに日数も伸びるわけだから大量に蓄えるのは必要なことだし、何も問題はないさ。


必要な物が特に浮かばずにのんびりと街を回っている時に人混みを見つける。

もしやと思い近づいてみれば、やはりというかなんというか……もはや定番になりつつあるバナナの叩き売りだ。

また発注ミスかと思ったが、そうでは無かったようで、なんかもう、定番になりつつあるしいっその事商会の目玉イベントにしようって話になったとかなんとか。

不定期に行い、客集めと名前を売るのが目的だそうだ。

逞ましいな。


そして、この人だかりを見て、あるものを思い出す。

うん。

あれはあると便利だな。

あの、列を仕切る奴。

名前は知らんけど。

ま、ロープと土魔法で代用できそうだからどのみち買う必要ないんだけどね。


そうして街を歩いたが、やはりというかなんというか、特に必要な物が思い浮かぶことも無く、のんびりとした時間を楽しむだけでこの日は終了した。

でもこういうのは久しぶりだし、偶には良いよね。

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