第759話 かなりお腹空いてるしね。的なお話

頭に当たった何かが飛んできたであろう方を向いた。

…………何もない?


「あんた、天下の往来で何恥ずかしいことやってんのよ!」


頭の方から声が聞こえてくる。

というか、この声って……


「もしかして、フラン!?」

「そうよ!」


どうやらぶつかって来た何かはフランだったようだ。

てか、ぶつかって来たというか、しがみついてる?


「あの、離れてくんない?」

「仕方ないわね〜。でも、こんな所で何やってんのよ!」

「つい……。」

「ついじゃないわよ! 人が折角美味しいお肉を食べさせてあげようと思って来たのに……あんなの見せられる人の気にもなってよ。」

「いや、なんていうか、すまん。……ん? まさかあの話か?」

「そうよ。」

「そうなのか! ありがとな!」

「ど、どういたしまして……。」


確か、肉料理が食いたいって話して、それで買って来てくれるとかいうのだったよな。

今まで行ったことない場所の肉料理……すっげー楽しみだな。


「じゃあ、行こうか。」

「あれ、あんた達が泊まってる宿ってこっちだっけ?」

「いや、今日まではアデラードさんの所に泊まるって話だから。」

「アデラードって誰?」

「この街のギルドマスターで、昔勇者を育てたっていう人。で、俺の婚約者。」

「はいーー!? こんにゃく……婚約? え? また増やしたの? は? え? なんで?」

「まあ、色々あって……。一応アリシアさんも認めてるから。」

「そ、そう……アリシア様が……なら私じゃ何も言えないじゃない……。」


ぽそぽそと呟くように言うフラン。

本当に呟いただけで誰かに聞かせるつもりは無かったんだろうけど……すぐ近くを飛んでいるせいで普通に聞こえてしまった。

……あの時の反応、まだ収まってない?

いやいや、まさかそれはないよね?

だって神様の眷属だし。

言ってみればフラン自身も神様のようなもんだし。


フランを伴ってエリュシオン邸へと帰る。

服とかに隠す事とかは出来ると思うけど、お世話になっているのに隠すのはなんだか申し訳ないので隠していない。


「なんか変な事考えているでしょ。」

「気のせい気のせい。」


捨て猫扱いが癇に障ったようだ。


「おかえ……って、その妖精……アリシア様にそっくりなんだけど、どういうこと?」

「ただいまです、アデラードさん。後、妖精じゃなくてアリシアさんの眷属です。」

「…………ロリコン?」

「誰がロリコンだ。アデラードさんは既に成人済みだ。それに俺よりもかなり年上だ。……フランの方がそれよりも年上だけど。」


不名誉な称号は勘弁してほしい。

俺は17でロリコン認定されるほどじゃない。

世間的にはロリ扱いでも俺にとってはちょっと年下なだけだし、大体アデラードさんは見た目自体はあれだけど、実際はかっこよくて綺麗で可愛い人だ。

ロリっ子扱いはアデラードさんに失礼だ。


「レントも失礼だけどね。」


やはり鋭い。


「はじめまして、アデラード・エリュシオンと申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「私はフランよ。頭を上げて。それとそんな敬語は必要ないわ。」

「じゃあ、お言葉に甘えて……。早速だけど、フランはレントとどういう関係?」

「私を目覚めさせたのがレント達で、それからたまに会いに来る関係よ。(……今の所は。)」


最後の方にぽそぽそと言っていたのは残念ながら聞こえなかった。

話すためなのかアデラードさんの方に飛んでいったから少し距離ができてしまったために。

なんて言ったのか気になるけど、追求してはいけないと俺の中の何かが叫んでいる気がする。


「それで、悪いんだけど台所を貸してくれる? レントにお土産を持ってきたから。」

「いいよ。それじゃ案内するよ。あ、レント達は先に食堂に向かってて。私もフランを案内したらすぐに向かうから。」

「分かりました。」


敬語はやめたけど、扱いは丁寧だな。

普通ならメイドさんを案内にやるんだろうけど、アデラードさん自らしている辺り、対応には気を使っているみたい。

でも、あんまり気にしなくてもいいと思うんだけどな。

だってフランだし。


それよりも、早く食堂に向かおう。

かなりお腹空いてるしね。

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