第704話 あの作品の中では主人公が1番好きです。的なお話

「あー、美味しかった。お兄ちゃんは凄いです。よくこんな美味しい物知ってましたね?」

「私の地元では種類は違いますが、エビを食べるのが当たり前でしたので。それと、僭越ながらお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか? お呼びする時に困ってしまいますからね。」

「むー。教えてもいいけど、敬語禁止! それと、人に名前を聞く時はまず自分から名乗るものだって、ザバスチャンが言ってたよ!」


惜しい!

一字違い!

そこはセバスチャンが良かった!


「これは申し訳ありません。ですが、このような公式の場で敬語をしないというのも問題がありますので、ご勘弁ください。それと、私の名はレントと申します。」


気軽に話しかけてどこかの貴族が不敬だー! って言ってこないとも限らない。

一応許可を取って話しかけていても、その誤解を解くのは面倒だ。

それに、プライベートでは親しい関係だとしても、こういう場では立場に合わせて敬語を使ったりするのが普通だろう。


「むー。しょうがないですね。では、私の名前はカトレア。カトレア・ホーキンスです。レントお兄ちゃん。」

「では、カトレア様とお呼びしますね。」

「はい。それでお兄ちゃんは何をしている人なのですか?」

「冒険者をしています。」

「え、冒険者さんなのですか? そうは見えないのです。」


ぐふっ!

これでも、転移前と比べて大分変わったんですよ?

硬くもなくぷよぷよでもない平凡なお腹も今ではシックスパックになってるし、腕や脚も太くはないけど筋肉に鎧われた細マッチョボディーになってるはずなんですよ?

それなのに、ぽくないですか……。


「大丈夫ですか? どこか具合でも悪いですか?」

「ははは……大大丈夫です。それで、そんなに冒険者っぽくないでしょうか?」

「はい。顔も厳つくないですし、体もゴツゴツしてなくて、貴族っぽくてかっこいいです。」

「そ、そうですか……ありがとうございます。」


ぽくはないけど、好意的に見ての事だったようだ。

少なくとも弱そうだからという事ではないのは良かったよ。


「冒険者さんなら、色々なところに行ったりしたんですよね? どんな所やどんなお仕事をしたのか、聞かせて欲しいのです!」

「分かりました。ですが、立ち話をする事でもありませんし、あちらで座りながらお話ししましょう。」

「分かりました!」


この手の貴族の子供にありがちな冒険譚を聞かせてくれと来ましたか。

とはいえ、俺ってそこまで色んな所に行ってたりしてないんだよな。

えーと、最初のカインと、領都のラングエルト、それから獣人達が多く住む自治領エルカ。

後はここ迷宮都市リステルとカインからここに繋がる村と商業都市クルスラウト。

そのくらいだよな。

流石に日本の事は話せないし、話せたとしても理解できるかわからないだろうし。

こんなに少なくて大丈夫なのだろうか。

ま、なるようになるか。


話をするのはまあ、いいとして。

その前にまずは保護者に一言言っておかないとだよな。


「すみません、ギリアム様。あちらでカトレア様とお話をするのですが、よろしいでしょうか?」

「構わんよ。むしろこちらからお願いするよ。貴族同士の大人の会話など、あの子にはまだ早いからね。」

「ありがとうございます。」

「だが、もしもあの子に何かあったら、その時はどうなるか……分かるよね?」

「は、はい。分かっております。」

「それならいいよ。ほら、カトレアも呼んでいるよ。早く行って来なさい。」

「分かりました。それでは、失礼します。」


完全に親バカの目をしてたよ……。

6人目でやっとの娘という事らしいし、まだ娘がいないから気持ちは分からないが理解は出来る。

だとしてもこっちはたまったもんじゃないがな。


「何を話してたのですか?」

「ここにカトレア様がいるって話だよ。居場所が分からないと困ってしまいますからね。それで、冒険の話ですよね?」

「はいです!」

「それでは、まずは初めて盗賊に襲われた話でもしましょうかね。」

「お願いします!」


カトレアちゃんに話をしているといつの間にか周りには小さな子供達が集まっていた。

どうやら他の貴族や商人が連れて来た子供達のようだ。

何故俺の周りに集まるか聞いた所、他の人達は恐いからだそうだ。

納得の理由だな。


結局俺は夜会が終わるまで話を語ったり、ダンスの相手をしたりと、子供達の相手をして過ごした。

何故俺は貴族の夜会に来て保父さんの真似事をする羽目になってるのやら。

まるで◯SOの某保母さんじゃないか。

ちなみに俺は、あの作品の中では主人公が1番好きです。

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