第666話 なんか腑に落ちない。的なお話

〜アカネ視点〜


「ねぇ、レント。そろそろ行かないとまずいんじゃないかな?」

「まずい? 何がまずいって?」

「ほら、アデラードさんの……」

「あっ! やっば! すみません、ちょっと約束があって、決闘はまた今度しますから!」


貴族相手に予定があるからで退去するのはすごく失礼な事だと思うんだけど……。

でも、時間がヤバいのは本当のことだし、元々突然やって来たのはお父さん達の方だ。

だから娘の釘を刺しておけば問題にはならないだろう。

約束の相手もアデラードさんだからきっと大丈夫。


「あ、こら! まだ話は済んでおらんぞ!」

「お父様、突然やって来たのはお父様なので貴族相手に失礼だ、というのは通りませんよ。それに今回は相手が相手なので問題にすべきではないですから。」

「相手? 私相手に対して問題提起出来るほどの者だとでも言うのか?」

「この街の冒険者ギルドのトップ、と言えば分かりますか?」

「ッ!? まさか、エリュシオン……?」

「私も約束があるのでこれで失礼します。」


ふぅ。

これで大丈夫。

それにしても、アデラードさんは本当に凄いんだなぁ。

お父さんのあんな顔初めて見たよ。


ギルドに駆け込みなんとか時間には間に合うことができた。


「どうしたの? そんなに慌てて。あ、もしかして寝坊でもした?」

「いえ、ちゃんと起きてはいたんですけどね……。」

「何かあったの?」

「アカネ、説明頼む。」

「私……が説明するのが筋よね。」

「まあ、俺も当事者ではあるんだが、きっかけも含めればアカネの方がいいだろ。」

「そうね。」

「何があったの?」

「えーと、実は昨日両親と姉が訪ねて来たんですよ……ね。」

「両親っていうと、ユースティアの?」

「はい。実は以前実家に手紙を送っていたんです。奴隷になってからのこれまでのこと、今どうしているのか、周りにはどんな人がいるのか、どこにいるのか、と言ったことを。その際に、えと、レントが好きなことも書いた……んですよね。」

「え……そ、そうだったの? いつから?」

「それは話が長くなるのでまた今度ということで。それで、両親……というよりも父が決闘だなんだと騒ぎ出しまして……昨日は太守様に挨拶やらをするとかでなんとかなったんですけど、今朝もやって来て、何故かレントが受けるって言ったんです。」

「はい? え、受けるって言っちゃったの?」

「そりゃ、仲間を守るためなら決闘の1つや2つ受けますよ。」

「ふーん。仲間、ねぇ。本当にそれだけ? 好きだからとかそういうのは無いの?」


アデラードさんがとんでもない質問をした。

それってどういう意味で言ってるの!?

これ以上増えて欲しく無いから?

それとも、ただの興味本位?

出来れば興味本位でお願いします!


「それはまだよく分かんないです。でも、護りたいとは思っています。」

「そっか。まあ、今更1人や2人増えたところでどうということはないんだけど。」


ほっ!

良かった……。


「そうですか。えーと、ありがとうございます……?」

「なんでそこでありがとうなのさ。所で、ひょっとしてなんだけどさ、あそこにいるのが、アカネのご家族?」

「「「へ?」」」


アデラードさんが妙なことを言う。

こんな所に貴族であるお父さん達が来ているわけないじゃない。

多分、依頼者か何かじゃ…………いるね。

うん。

間違いなくお父さん。

お母さん達もいるし……。


「えと、残念ながら、その通りです。」

「そっか。すみませーん! 何か御用でしょうかー?」


アデラードさんが扉の陰からのぞいていたお父さん達を呼ぶとおずおずとやって来る。


「その、うちの娘が一体なんの用でエリュシオン様に呼ばれたのかと、思いまして……。」

「そんなかしこまらないで下さい。彼女は私が弟子にとったんですよ。なので何か粗相をしたということではないので安心して下さい。それよりも、レントと決闘をすると言っていたと聞きました。」

「はい。あ、ですが、流石に私自身が出るのはマズイですから、護衛で信頼の出来る者を代理にするつもりでした。」

「そうですか、流石に決闘はマズイと思いますから、代わりに模擬戦ということでどうでしょう? レントも対人戦のプロと戦ういい機会ですから。」

「そう……ですね。娘にも受けるメリットがないと言われましたから、エリュシオン様の言う通り模擬戦の方が良いでしょう。」

「そういうわけだからレント、頑張ってね。」

「はい!」


何故だろうか?

なんでレントは模擬戦をすることになったんだろう?

私のための決闘が、レントのための模擬戦になっている。

決闘がなくなったのはいいことなんだけど……なんか腑に落ちない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る