第656話 今日はやめておくか。的なお話
朝だ。
昨夜は意外と楽しかったな。
2人っきりで、静かにお酒を飲むというのは何気に初めてだった気がする。
大した会話があったわけじゃないけど、うん。
楽しかった。
「んぅ……あ、レント。おはよ。」
「おはようございます、アデラードさん。」
「あー、そっか。昨日は2人で飲んでそのまま……えへへ。なんか、こういうのいいね。」
「そうですね。」
目が覚めたら好きな人と2人っきり。
アデラードさんにしてみれば、そういうことは全然無かったんだろうし、嬉しいというのも理解できる。
俺自身、何度かそういう経験あるし。
起きて目の前にセフィアの顔があると本当に愛おしいと思えたりさ。
ーーコンコン
誰だろ?
ノックの音がするが……まあ、セフィアかリリン辺りかな。
アデラードさんが部屋にやって来た際に、鍵は帰る時にでも掛ければいいやと思ってたから開いたままだ。
気づいたら寝ちゃってたし。
だから、そのまま入っていいと声をかける。
「どうぞー。」
「おはようございます、レントさあぁー!? な、なんでアデラード様がぁ!? はっ! まさかアデラード様も!?」
訪問者はカンナさんだった。
ちょっと予想外だったけど、メイド見習いとしての初めての仕事としてお客様を起こしに来たとか、朝食が出来たから呼びに来たとか、そういうのだろう。
でも、このタイミングで!?
「ちちち、違うよ!? まだ私とレントはそういうのじゃないから!」
「そ、そうですよね! 身分が違いますもんね。…………って、まだって言ってた!? じきにそうなるって事!?」
「そうだけどそうじゃないから! 今日のは本当に違うからーーー!」
何故か「パないです、アニキ!」と言って来たカンナさんに言い聞かせつつ、テンパってるアデラードさんを宥めながらひたすらに誤解を解く。
婚約関係については新人メイドちゃんに言うことではないので割愛しつつ事情説明をした。
……朝から疲れた。
◇
朝食を食べに食堂に向かうと既に全員が揃っていた。
くっ!
みんながいるのは分かっていたけど、まさか蒼井に遅れを取るなんて!
みんなでのんびり朝食を食べ、食後の紅茶を飲んでいると、突然カンナさんが爆弾を投下して来た。
「皆さんはレントさんのハーレムという事ですが、昨日はなんでしなかったんですか? それにアデラード様が居ましたし。」
「「「!?」」」
突然の発言に何人かがビクッと反応しちゃったじゃないか!
「い、いや〜、流石に上司の家でそんな事する度胸は無いですよ。」
「そうっすよ! そもそも、私なんか後から入ったわけで、皆さんを蔑ろになんか出来るわけないっすよ!」
「僕はレントの部屋に行こうと思ったけど、アデラードさんが向かっているのを見かけたら、遠慮したんだよ。そのまま行っちゃえばいいのにと思ったんだけど……。」
「「行かないよ!?」」
セフィアも爆弾魔だった。
というか、アデラードさんとはそういう事どころか、キスもデートもするつもりないから!
ちゃんと婚約者だと言えるようになるまではそういう事はするつもりないから。
「アデラード様。そろそろ行かなくてよろしいのですか?」
「へ? って、あ! もうこんな時間! レント! 依頼達成の処理をしないとだし、急ぐよ! それと、ミストはカンナのことお願いね! カンナもミストの言うことをちゃんと聞くんだよ!」
朝の騒動と爆弾によってちょっと長居し過ぎた。
慌てて準備を整えるとすぐにギルドに向かった。
「遅刻ですよ、アデラード様。」
「ごめん。」
「まあ、いいでしょう。今は小言よりも仕事の方が優先です。今は依頼達成手続きや冒険者登録の手続きで忙しいので、アデラード様もレントさん達の依頼達成手続きと報酬を渡したらすぐに仕事をしてくださいよ。リナも、早く持ち場につきなさい。」
「はーい。」
「はい!」
カルロ達のような警備の仕事の手続きと、冒険者が買った奴隷の冒険者登録か。
本当は訓練とかしたかったんだけど、アデラードさん忙しそうだし、今日はやめておくか。
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