第570話 いえ、普通に客ですよ? 的なお話

フランベルさんが消えた。

普通に考えるなら、客として店の中に入っていったってことだろう。

ここは店の玄関部で中の方は全部見えないからな。

だから死角となる場所にいると考えるのが普通だ。

今が、9時半じゃなけりゃな。

そんな時間に客としてなんか来るわけない。

となると……どういうことだろう?

とりあえず、辺りを探してみるか。

まあ、ひょっとしたら蒼井が見間違えただけなのかもしれないけどさ。

1つ隣の店に入ったとかさ。


あっちでキョロキョロ、こっちでウロウロとしてると予約の受付をしてる人とは別の従業員がやってきた。


「あの、どうかしましたか?」

「ああ、いえ。ちょっと見たことある人が中に入っていったのを見かけたもので、それでどこにいるのかなと、ちょっと探していました。」


自分の力だけで探したいとかいう考えはないので普通に答える。

というか、どこに行ったかということの方が気になるし。

ちなみに、フランベルさんとはそこまで親しくしていたわけじゃないので、知人とか知り合いではなく見たことある人という表現にした。


「あ、ひょっとしてフランベルさんのことでしょうか?」

「そうです。」

「彼女なら、今は奥で夫と話をしていますよ。」

「夫?」

「はい。この店は夫のウェイリーと私、ノーラがやっているんです。それで、今フランベルさんは夫と仕入れについて話してるはずですよ。」

「仕入れ? 貴族の家の料理人の娘さんだけど、一応今冒険者ですよね? それなのに仕入れって、何か話すことってあるんですか?」

「うちの料理って、アクリアから新鮮な魚を仕入れているので、フランベルさんは仕入れた魚から幾らかを購入しているんですよ。こちらとしても、仕入れのついでに人件費なんかも見込めますから。」

「そ、その手があったかーーーー!!」

「え、え?」

「その話、俺も噛ませてもらえません?」

「はい?」

「俺にも魚を売ってください!」

「えーと…流石にそれは私1人では決めかねますし、仕入れることのできる量にも限度があるので……その辺の話はまた今度ということで……。」

「そう……ですか……。分かりました。また日を改めて伺います。」


また今度というのは普通は遠回しに拒絶しているのだと思う。

でも、そんなのは知ったことではない。

ここを逃せば、次仕入れられるようになるのはいつになるかわからない。

以前、フランに魚を頼もうかとか考えたこともあったけど、ここ最近は全然会っていないのでそれもいつになるのやら。

アクリアに行くにしても、一旦カインに帰ってからになるからやはり時間がかかる。

だから、向こうがどんな意図で言っているのかに気づかないふりをして、また来ると宣言する。


「とりあえず、1週間後にまた伺いますね。」

「えーと、分かりました。夫にもそう伝えておきますね。」

「お願いします。」


強引にねじ込んでやったぜ。

向こうからしたらいい迷惑なのだろう。

フランベルさんとは信頼を築いているからこそできるんだろう。

それに対して俺とは今日初めて会ったわけで、そんな俺との間に信頼も信用もあるわけがない。

それでは受けるなんて気軽に言えないはずだ。

でも、やっぱり欲しいんで。

信頼に関しては、これから頑張って築いていこう。



一旦帰って、12時半にまたウェイリーノーラにやってきました。

時間になるまではダウトを再びやっていた。

今回は別段蒼井を狙っているわけではないので、何回か1位になることが出来た。

まあ、やっぱりリリンが1番勝っているけど。


「ええっ!? 1週間後に来るはずじゃなかったんですか!?」


いえ、普通に客ですよ?

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