第561話 待ち惚けだと思うんだけど。的なお話

「残りは牛と雑魚魔物だけど、雑魚の方はいつも通り全部売るとして、牛はどうする? 確か、こいつもかなり美味かったよな?」

「全部残しましょう! 皮はそのうちエルナの防具として使えばいいし、鞘とか財布とか色々使い道もあるし、是非残しましょう!」

「え、あ、うん。」


え?

急にどうした?

なんか、アカネがガンガン来るんですけど?


「エレクトロブルは牛なだけあってステーキも美味しいんだけど、私としてはビーフシチューを推すわね。濃厚なデミグラスに柔らかくて旨味がたっぷりのお肉。じっくりと煮てフォークで簡単に切れて口に入れるとほろほろと崩れていくの。あ、でも、ビーフカツも美味しいのよね。前世で作ったことはないけど、カツ系は比較的簡単な作りだから覚えてたのよね。だから、料理長にこういう風に作ってて言って作ってもらったのよ。幸い勇者がいるから本にどういう料理かというのが書いてあったから不審に思われずに済んだのよ。それで食べてみたらザックリとしたパン粉に旨味たっぷりの肉汁が溢れてきて家族みんなが絶賛してたの。ああ、思い出したら食べたくなってきちゃったわ……。」


本当に、ガンガン来る。

なにこのマシンガントーク?

でもとりあえず…


「うん。アカネがエレクトロブルの肉が好きなのはよ〜く伝わったよ。だから少し落ち着こうか。」

「あ……。」


赤面するアカネ。

結構長いこと一緒にいるけど、こんなアカネは初めてみた気がする。

なんか新鮮でいいな。


「えーと、アカネがこう言ってることだし、牛は売らないで解体だけしてもらうってことでいいかな?」

「「「異議なーし。」」」

「うぅ……ありがと。」


アカネ、未だ赤面中。



魔物をどうするかの相談も済んだので早速ギルドに報酬を受け取りに行く。

今回の依頼は俺、セフィア、リリン、アカネの4人なので4人で行けばいいのだが、何故かみんなついてきてる。


「なんで、みんな来たの? 宿でのんびりしてていいのに。」

「だって、幾らになるのか気になるじゃない。」


蒼井がそういうとみんなして首を縦に振っている。

なるほど。

さっきまでどうするかの相談をしてたから気になっちゃったか。

それなら仕方ないか。


「ようやく来ましたわね。」

「あれ、ナタリアさん? どうしたんですか?」


ギルドに着いたら早速ナタリアさんに声を掛けられる。

後ろにはルキノさん他、天装の姫の人達がいる。


「今日報酬の受け取りでしょう? だから、その前に相談をしたいと思っていたの。」

「相談、ですか?」

「えぇ。あの時は咄嗟だったので魔物を押し付ける形になってしまったのですが、実は私達と貴方達が戦った魔物ではランクに差がありますの。つまり、その分買取金額に差が出るということでもあります。倒したのは私達ですが、ランクの低い魔物を押し付けたのも私達なので、その辺のことを相談したいと思っていましたの。」


確かにそうなんだけど、あれは人数に差があったから妥当な判断だと思うんだよね。

だから、別にそれに不満なんて無いんだが……

それに、もしも相談で全部の魔物を売ってそこから折半なんて事になったら、アカネがどうなることか。

うん。

相談する必要ないな。


「いえ、相談する必要はないですよ。あの時はこっちは4人しかいなかったのに、高ランクの魔物を任されていたら、誰か取り返しのつかない怪我をしていた可能性があります。なので、あの時の判断は間違っていたとは思っていません。それに、こっちは4人ですから、あの3匹でも十分過ぎる収入になりますし、人数で割った際の差はそこまでにはならないと思うので、そのまま倒した魔物をパーティ毎で分けるのでいいですよ。」

「本当によろしいので?」

「はい。それに、アカネがエレクトロブルの肉が好きだそうで、折半なんて事になったらかなりがっかりしちゃうと思うんですよね。」

「ちょっ、そんなこと言う必要ないでしょ!」

「あら、貴女もエレクトロブルのお肉が好きなんですの? 実は私もなんです。あの柔らかな肉質と旨味は素晴らしいですわよね。」

「分かります! ただ塩胡椒を振って焼いただけなのに、それだけで極上の味になるし、煮込むとまた別の食感になって全く違う美味しさがありますよね?」

「ええ。貴女とは気が合いそうですね。」


貴族のお嬢様同士で、気が合ったみたい。

それは凄くいいことだと思うんだけど、そういうのは報酬を受け取ってからにしません?

アデラードさん、待ち惚けだと思うんだけど。

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