番外編 雛ま……流し雛?(2)
俺が買ったダイナバードというのは魔物らしく成長が早い。
卵が孵ってからわずか数日で練習に入れるようになった。
流し雛まで後1ヶ月か。
頑張らないと。
「ピュリオス、右!」
「ピィ!」
「次は左!」
「ピッ!」
「そこですかさず愛嬌!」
「ピィ〜?」
「よーしよし! よく出来たな〜。ほら、餌だぞ〜。」
「ピィ〜!」
みんなも流し雛に向けて特訓をさせている。
アカネも無事に卵を確保し、昨日無事に孵った。
アカネが買った卵はジェノサイドオウルという魔物らしい。
名前が物騒だ。
練習の合間に流し雛用の小船を改造する。
芸術点というものがあり、小船でどれだけ個性を出せるかも重要なポイントだとか。
なので俺も爪楊枝作りと鍛治作業で鍛えた技術をふんだんに使って小船を改造していく。
船首にはピュリオスを模した模型を付けて、船体の横には翼を付けたいな。
あ、でもやり過ぎると規定規格を超えるから注意しないと。
◇
そんなこんなしてたらあっという間に流し雛当日。
場所は迷宮都市の近くの川。
そこに俺達は警備をする冒険者としてやってきた。
「それじゃ、今日はよろしくね。ちゃんと自分の番になったら参加できるようにしてあるから仕事もしっかりね。」
「「「はい!」」」
一般人の多くが集まる催し物な為に衛兵だけではなく多くの冒険者が駆り出されているわけだな。
そしてBランクとCランクで構成されている我が
「にしても…………レントの子は、大きいね……。」
「そうですか?」
「いやだって、みんなのよりも一回りは大きいからね、それ。」
ま、まあ……ちょ〜っと食べさせすぎたかなとは思うけど、そこはほら、個体差ということで。
「そういうアデラードさんはどんな子を参加させるんですか?」
「ん? この子だよ。」
「グアッ!」
「………………ドラゴン?」
「ワイバーンだよ。」
「ギャウッ!」
「そんなのアリなんですか!?」
「ちゃんと雛だし。」
「確かにそうだけども!」
ワイバーンなんてありかよ。
この流し雛、ぶつかったりすることも良くあるとかで妨害アリなんだよ。
そこにワイバーンとか……勝てる気がしない。
「まあ、安心してよ。この辺の子達は高ランクの部に出るからさ。」
「そうですか……それは良かったです。」
「と、そろそろ始まりそうだし、警備よろしくね。」
アデラードさんの言う通りマイク的魔道具で開催10分前とのアナウンスが流れてるし、早く配置につこう。
魔物の排除や喧嘩の仲裁なんかをしている内に俺達の出番となった。
さあ、行くぞピュリオス!
「ピッ!」
◇
流し雛は川に10艘の小船を並べ、300メートル川下のゴールを目指して競うというもの。
運営が設置する障害物は無いものの自然の障害物である岩などがあり、それをどれだけ上手く躱せるかが勝利の鍵となる。
ちなみに勝った場合の商品は1000リム分のお米券ならぬパン券が貰える。
けち臭いと思わなくもないが流石に人数が多いししょうがない。
「それでは第36レース…………スタートです!」
スタートの合図に合わせて船を留めていたストッパーが外され一斉に動き出す。
うちの子はやはり重いのか若干出遅れてしまう。
しかし、そんなのは想定内。
その差を埋めるための工夫を船に施してあるのだ。
うちの船は他のよりも少しばかり転覆しやすい。
それはつまりぐらつきやすく曲がりやすいということでもある。
そしてうちの子は普通よりも少し重いので重心が下に来て安定しやすいはず。
重心の操作で曲がれるように練習もしてある。
大丈夫。
問題ない。
いけるはずだ。
「左に曲がれ! 次は右だ! もう一度右! 次は左だ! そこで愛嬌!」
「ピィ〜?」
障害物を躱しつつ愛嬌のポーズを入れる。
せっかく練習したんだし入れないのもね。
そしてゴールをするのだが、残念ながら3位だった。
初参加にしては上出来だろうが、あんなに頑張ったのだからすごく悔しい。
でも、やったよ〜と、ばかりにこちらを見るピュリオスを見てると勝ち負けよりも頑張った事の方が大事だと思わされる。
「よく頑張ったな。」
「ピイッ!」
「うん。それじゃ、メシにしようか。今日は頑張ってくれたから豪華なのにしような。」
「ピィッピィッ!」
商魂たくましい商人達が出店する出店にピュリオスを労うために向かうのだった。
◇ここから先はポ◯モンのサ◯シのバ◯フリー的な展開になりますので、苦手な方はここでブラウザバックなりして下さい◇
「皆様のおかげで無事に全てのレースを終えることができました。本当にありがとうございます。レースを盛り上げるために協力してくれた皆様、そして、一生懸命頑張ってくれた雛達に盛大な拍手を送りましょう。」
ーーパチパチパチパチパチパチパチパチ!!
「ありがとうございます。それでは、最後のプログラム。別れの儀に移らせていただきます。」
え?
別……れ?
誰と誰の……?
「ピュリオス……。」
「ピィ?」
「それでは皆様、一生懸命頑張ってくれた雛達に別れの言葉を送って下さい。」
その声が聞こえた途端、そこかしこから別れの言葉が紡がれる。
なんでだよ。
あんなに応援して、指示を出してたのに、なんでそんなに簡単に別れられるんだよ!?
「レント………ごめんね。」
「セフィア? なんでセフィアが謝るんだよ?」
「僕達みんな知ってたんだ。こうなる事を。でも、レントがすごく可愛がってるのを見てたら言い出せなくて。もしも僕達がちゃんと教えてれば、レントが悲しい思いをしなくて済んだのに……本当にごめんね……。」
「だから、セフィア達は何も悪くないだろ。それに、別れの儀だからって、無理に別れる必要なんかないだろ? 従魔にするなりして、きちっと面倒を見ればいいだけの話だろ?」
「それは無理なんだよ。」
「どうしてだ?」
「僕達は宿住まいなんだよ? これまでは祭りの関係で許されてたけど、これからはそうじゃない。それに、もしも長期の仕事が入って宿に帰れなくなったら? 迷宮に潜って面倒を見れなくなったら? その時どうするのさ? みんな死んじゃうんだよ?」
「そんなの、一緒に連れてけばいいだろ?」
「まだ雛なのに連れていってどうするのさ。守りながら戦ってみんなが怪我をするかもしれないんだよ?」
「それは……」
「それに、そんな依頼や迷宮に連れていったら耐えられなくて死んじゃうよ。そんな目に合わせるくらいならここで別れて自然の中で暮らしてもらった方がこの子達にとっても一番いいんだよ!」
「どうしようも……ないのか?」
「どうしようもないんだよ……。」
どうしようもないのか……。
「ごめんな、ピュリオス。どうやら、俺達はここでお別れのようだ。」
「ピィ!?」
「このまま一緒にいるとお前を死なせてしまうんだだから……。」
「ピィッ! ピィッ!」
「俺だって辛いんだ! でも、仕方ないんだ!」
「ピィ……。」
「ほら、行くんだ……お前ならきっと上手くやれるはずだ。絶対、立派になるんだぞ……。」
「ピィ………ピィッ!」
森に向かって飛んで行くピュリオスを見えなくなるまで見送った。
「元気でなーー! 絶対に死ぬんじゃないぞーー!!」
「レント……。」
「大丈夫だよ。あいつの親として、腑抜けたままでなんていられないからな。」
「うん。」
こうして雛祭り………いや、流し雛は終わりを告げた。
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