番外編 セラとリィナの日常

〜第三者視点〜

ここはグラキアリス王国のドラーエン伯爵領にある街の1つ、カイン。

そこにある冒険者ギルドの職員寮にて、うら若き乙女が2人、お酒を用意して飲み会を行おうとしていた。


「部屋を貸してもらって悪いな、セラ。」

「別にいいわよ。それよりも、今日はどうしたの?」

「まあ、まずは飲んでからだ。」

「そうね。それじゃ……」

「乾杯。」

「乾杯。」


お酒を注いだコップを軽くぶつけてコツンっと音を奏でる。

セラと呼ばれた女性は優雅に、セラと呼んだ女性、リィナはゴクゴクと、それでいて下品ではないように見えるのはその整った容姿故か。

2人のコップが空になり、お互いに次のお酒を注ぎあうと、セラが本題は? と視線で話を促す。

ちなみに、コップは木製である。

セラとしてはガラス製のグラスの方が好みなのだがギルド職員で借金持ちなために高価なガラス製品を買う余裕がないからだ。


「いやな、そろそろ本気で恋人を作ろうと思って、だな……それでどうしたものかと……。」

「そう。確かに、遠距離恋愛はキツイわよね。」

「あぁ……って、ちょっと待て!? なんで遠距離恋愛限定なのだ!?」

「何故って、あれだけ目をかけてて、それでいなくなれば偶に酔ってタイプだったのに〜とか今からで追いかけて〜とか言ってたら、そりゃ分かるわよ。」

「そんな馬鹿なっ!?」

「本当よ。まあ、気持ちはわかるけどね。あの子、なんていうか、他の子と違った雰囲気を感じるのよね。冒険者の全員が粗野で粗暴ってわけじゃないし、ごく偶に礼儀正しい子もいるけど、その子達ともなんか違うのよね。こう……純粋培養というか、危険が少ない場所で育てられた無垢な感じがあったのよね。」

「そうだな。戦闘に関しても拙いし、常識もない。それなのに読み書きは完ぺきで頭もいい。本当に、不思議なやつだよ、レントは。」

「私、誰が、なんて言った覚えはないんだけど?」


そのセラの言葉にリィナは怒りと照れと動揺が混ざったような表情をして文句を言おうとする。

しかし、なんと言えばいいのかパッとは浮かばなかったのか金魚のように口をパクパクとし、数秒の後大きく息を吐くと諦めたように口を開く。


「確かに、レンとのことは気になっている。というか好きだ。最初は弟のようだと思っていたのに、いなくなってみれば寂しく思うようになっていつの間にか気になって、そして好きになっていた。」

「実を言うとね、私もそんな感じなのよ。」

「なにっ!?」

「もっとも、私はリィナほどじゃないんだけど。」

「そ、そうか。」

「そこ。何ホッとしてるのよ。あの子には既にかわいい奥さんがいるのよ。それなのに、そんなんでどうするのよ。」

「そ、そうか……いや、そうだな!」

「そういえばさ、アベルとはそういう雰囲気にはならなかったの? 一応、女子人気高いのよ?」

「ありえないな。確かに見てくれはいいが、そんな感情を抱いたことなど一度もないな。………それに、アベルはトリアの旦那だろう。盗れるわけないだろう。」

「ふーん。でも、その理論でいくとレントも諦めるということになるけど?」

「い、いや、それはそれというか……なんというか………あ、お前のグラスが空だな。ほら、飲め。」

「なんとまあ、あからさまな話題の逸らしかたね。」

「うっ……。」

「ま、別にいいけどね。」


それからしばらくの間、2人がグラスを傾け酒を飲む音だけが辺りに流れた。


「ふぅ。それで、結局貴女はどうしたいの? どうなりたいの?」

「そう言われても、な。」


セラの問いかけに言い淀むリィナ。

その心境は教え子に手を出すのはどうかという師匠としての考え、弟子の旦那に懸想するのはという倫理観、そして何より、自身の気持ちが本当に恋心なのかという葛藤があった。

逢えない期間が想いを強くするなどと言っても、もともと好感は持っていてもそれは好意ではなかった。

逢えない内に気になっていったが、果たして今会って本当にこの想いが恋心なのか、ただ単に寂しくなって人が恋しくなっただけではないのかと考えてしまっていた。

めんどくさいな、本当に。


「どうするにしろ、気持ちだけは決めておきなさい。家のこともあるだろうから、半年後くらいには帰ってくるだろうしね。」

「そうだな。」


と言いつつ、こんなやり取りは既に5回目だったりする。

一言一句同じというわけではないが、大体似たようなやり取りをしている。

帰ってきた時にどうすればいいのか? と、定期的にヘタレてセラに泣きつき、諭してもらう。

それがここ最近の定番だったりするのだ。


「あ、半年といえば……」

「どうしたのだ?」

「私の借金も後半年程で完済できそうなのよ。」

「本当か!?」

「ええ。領主が変わって税率が上がって借金を返す余裕がなくなるとか、実家の方で面倒ごとがおきたりとかが無い限りはね。」

「縁起でもないこと言うなよな。」

「ふふっ。それはそうだけど、ここの領主は健康そのものだし、跡取りも馬鹿じゃない。それに実家の方も問題はないみたいだし、大丈夫よ。」


明らかなフラグを立てていくが本当に大丈夫なのだろうか?

え、なんですか?

あ、大丈夫だそうです。

なんか、そんな予定はないから心配しなくていいって上から御達しがありました。

というわけで大丈夫だそうです。


「大丈夫ならいいんだ。…………それで、借金を返し終わったらどうするのだ?」

「そうね〜、また冒険者に戻るのもいいかなって。」

「ほ、本当か!? なら、一緒に…「でも、今の仕事も割と楽しいのよね〜。冒険者が、依頼先であったことを面白おかしく話して、それを聞くの。最近だと、魔法の練習してて流れ弾でロックビーの巣をつついて仲間と一緒に逃げる羽目になったっていうのがあってね〜、全員顔をパンパンに膨らませてたの。」……そうか。それは見てみたかったな。」


セラの口調がどこか間延びしている。

それもそのはずで、会話をしている間も酒を飲んでいて気づけば空のボトルが3本転がっている。

女2人でそれだけ飲めば酔いするだろう。


「あ、でも〜、もう一度冒険者に戻るのもいいって思っているのよ。また、リィナと一緒に、魔物討伐や……ダンジョン……に……。」

「ふっ。そうか。」


酔いが完全に回ったのだろう。

言葉が途切れていくと共に頭が下がっていき、そして完全にテーブルへと預ける事になった。

それを見たリィナはセラをベッドへと運び、自身もそのベッドへと潜り込む。

ここはギルドの職員寮であり、とてもじゃないが2人分のベッドを置いておくスペースはない。

生憎と遊びに来た冒険者を止めておく空き部屋もない。

だから仕方なくと、いつも通りベッドへと潜り込み、そのまま眠りについた。


翌日、同じ寮の同僚が食堂に来ない事を訝しんで訪ねて目撃し、2人がそういう関係だと誤解されるのだが、それはまた別の話。

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