第558話 そりゃ気まずいよ。的なお話

朝になって目が醒めるが、あまり疲れが取れなかった。

ベッドで寝れてはいるけど、雑魚寝状態で寝てしまったみたいで変な体勢だった。

というか、なんでこんな……ああ。

例によってアデラードさんか。

これだけ頻繁に来られると妙な噂が立ってしまうと思うんだけど、どうするつもりなんだろう?

あながちウソだといえないのがまた始末に困る。

だって婚約者だし。

あ、指輪渡してない。

あとで用意しなきゃ。


部屋を軽く片付けてから朝食を戴く。

流石のアデラードさんも色々あったからなのかいつもよりも早く寝たのであまり散らかってなかったから楽で良かった。


「じゃあ、私は仕事があるからこれで。」


アデラードさんがギルドに行った。

協議するとか言ってたから多分それだろう。

さて。

じゃあ俺も出かけようかな。


「あれ? どこ行くの?」

「んー、まあ、ケジメをつけに行こうかなって。」

「ケジメ? ああ。ひょっとしてアイリスさんのとこ?」

「ああ、うん。まあね。」

「そっか。頑張ってね。」

「うん。」

「ところで、リナは?」

「うっ! そ、それは………ま、まだ保留って事で。」


リリンめ……そんなこと言ったって、まだリナさんはそういうレベルまで行ってないんだから仕方ないじゃないか。

俺もなんとかしないととは思ってるけど、そう簡単には決めれないよ。

なんとなく気まずいので逃げるようにしてアイリスさんの元へ。


うぅ。

やっぱり緊張する。

でも、こればっかりはどうしようもないよな。

それに、告白して来たみんなの方が緊張してただろうし、それに比べたら返事をするだけの俺なんて大したことはない。

えーい!

男は度胸だ!


「お邪魔します!」

「れ、レレレレントさん!? な、なんで!? まだ依頼に行ってるはずじゃ……?」

「それなんだけどね、ちょっと予想外の事とか色々あって早めに帰ることになったんだよ。帰って来たのは昨日なんだ。」

「そ、そっすか……。」

「それで、今日はその報告と、返事をしようと思って。」

「へ、返事っすか?」

「うん。そ、その、俺も、アイリスさんのことが好きになりました。なので、アイリスさんさえ良ければ、俺と付き合ってください!」

「……………………。」

「あ、アイリスさん?」

「あ……その、すごく嬉しいっす。」

「じゃあ?」

「凄く、嬉しいんっすけど、今はまだ、その気持ちには応えられないっす。」

「…………なんで?」

「まだ、私はレントさんに借金を返すことができないっす。そんな状態でそういう関係になっても、私が胸を張れないんすよ。私はレントさんの恋人だって。だから、自分から告白しといてなんなんですが、もう少しだけ待っててもらえないっすか? きちっと商品を売って、そんで借金を返したら、そん時は、レントさんの恋人にならせて下さい。」

「分かった。待ってるよ。いつまでも。」

「い、いや、そこまでは時間がかからない予定っすから!」

「あははは!」


うん。

スッキリした。

すぐに恋人にってわけじゃないけど、ちゃんと自分の気持ちは伝えたし。


「チワーッス。防具新調に来ました。」


お。

お客さんだ。

邪魔にならないように隅っこに行ってよう。


「…………パーティ全員……。……リザードで…………。」


商談中だが、なんか、パーティ全員とか言ってるんだけど?

商談がまとまったのか、お互いがいい笑顔で別れ、お客さん達は店を後にした。


「えーと、大口注文というか……今、300万の依頼を受けたっす……。えっと、い、1週間後から恋人として、よろしくお願い、します。」

「あ、うん。よ、よろしく。」


胸を張れないとビシッと決めたそばから借金を返す目処が立っちゃったからな。

そりゃ気まずいよ。


兎にも角にも、こうして俺は、新しい恋人が1週間後に増えることになった。

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