第498話 早速訓練開始だ。的なお話

ずいっと乗り出して答えるリナさん。

というか近い近い!


「あの、近いです……。」

「あ、すみません!」


そんなにカニが好きなのか。

……………なんてとぼける必要はないよな。

やっぱり、俺に誘われたから、だよな。


「冒険者の皆さんが偶に喋ってたりしてたカニが食べられるなんて……はぁ〜。楽しみだな〜。」


あれ?

本当にカニが目当てなの?

告白されたからって、俺に誘われたから嬉しそうなんて勘違いして、自惚れてたのが恥ずかしい……。


「あ、それで何時くらいに行けばいいですか?」

「え、ああ。えっと、そうだな〜。じゃあ、7時くらいで。」

「分かりました。」


さて。

それじゃ帰るか……………って、帰っちゃダメだろ!

誘いに来たんじゃなくて訓練に来たんだから。

でも、アデラードさんは会議中だ。

会議の内容は恐らくあの恐竜についてだろう。

生態系が変わったのか、それとも…………あの恐竜が逃げ出すような脅威が奥に生息するようになったのか。

その理由を探るための調査隊の編成とかをしてるのだろう。

俺達は……選ばれないだろうな。

あんなことになってたし。

まだ見ぬAランク以上の人達や黒狼に天装あたりが呼ばれるのだろう。


「あの、どうしたんですか?」

「あ、すみません。ちょっと考え事を。訓練についてみんなと少し相談したいのでちょっと離れますね。」

「あ、はい。」


恐竜について知らされてないみたいだし、無闇矢鱈と広めて混乱させる必要はないからな。


「会議をしてるってことは調査隊の編成とかをしてるんだと思う。だからその調査の結果が出るまでは近づかないほうがいいと思う。」

「でもレックスはもういないんだし別に気にする必要なくない?」

「これだから蒼井は……はぁ。」

「溜息つかれた!?」

「確かに、これは酷いわね。」

「だよね!? もっと言ってやってよアカネ!」

「あなたによ。」

「私?」

「今アデラードさんが会議をしているのは昨日のレックスが何故あんな場所で出たのか、原因は何か、事前に何か情報が入ってないかなとを話し合ってるからよ。だから、その異変が分かるまでは注意が必要って言ってるのよ。少なくとも、アデラードさんから指示を受けるまでは迂闊に近づくべきじゃないわね。これくらい、考えればすぐ分かると思うんだけど………なんだか、ちょっと今後のことが心配になってくるわね。」


昨日の今日で会議なんて言われたら普通はそれを考える。

なのに考えない蒼井。

ちょっと頭痛くなってきた。

アデラードさん……は不安だから今度エリーナさんに教育してもらった方がいい気がしてきた。

このままだとアホすぎる。


「ま、まあ、そういうことだから、とりあえず今日は訓練場でも使おうかと思ってるんだけど、どうかな?」

「そうね……雨による視界の悪さ、足元の悪さ、それから濡れた服の阻害効果なんかを知っておくのに森である必要性はないからね。森でやる意味はあるけど。」

「僕も反対する理由はないかな。」

「私は反対です。泥汚れは落とすのが大変ですし明日もまだ降るかもしれないんですよ? 汚れは落ちきらず、生乾きで臭い。そんなの、宿屋として許せるはずないじゃないですか。それどころか、責任問題になるかもしれないじゃないですか!」

「あ、うん。そうなんだ。」


反対の理由がちょっと斜め上だった。

流石ルリエ。

宿屋の娘なだけはある。

レイちゃんとは歳も近く同じ宿屋の娘ということで親近感を感じてるのか、そっちサイドで考えたようだ。


「責任問題とかは、俺らが言わなければいいんじゃないかな?」

「ダメです。どこから漏れるかわからないんですよ。もしも、あそこの宿は客の服を台無しにするなんて噂が出たら宿なんてやっていけなくなります! 宿屋は信用を失ったら終わりなんです!」


饒舌に語るルリエ。

その熱の入りようにびっくりだ。


「それは訓練が終わってから考えよう? もしもそんなに酷い状態なら自分達で洗濯してもいいわけだしさ。ね?」

「……分かりました。」


よっぽど親近感が湧いてるんだな。

ちょっと不満げで不承不承ながら了承します。って感じだ。

でもそんな姿がレアでラッキーって思っちゃった。


「他のみんなはどうかな?」


残りのメンバーはルリエの反応に驚いていたが、特に反対意見は無いようで揉めることはなかった。


「というわけなんで、訓練場の使用許可をください。」

「え、この雨の中ですか?」

「この雨の中です。」

「まあ、誰も使ってない……というか、誰も来てませんから別に構わないですけど。」

「そうですか。じゃあ、使わせてもらいますね。」

「あ、レントさん。」

「はい?」

「使うのは構わないですけど、無茶して風邪を引いたりしないでくださいね。」

「はい。気をつけます。」


許可も得たし、早速訓練開始だ。

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