第416話 下から3番目。的なお話

「はい、しゅーりょー。今日はここまでにするよ。」


訓練が終わると疲労が溜まってた結果その場にへたり込んでしまう。

魔法の場合は体力はそれほど使わないけど、精神的にはかなり疲れるからな。


「それで明日なんだけど、私は残念ながらまた仕事があるので依頼を受けて実戦ね。あ、それと戦闘方法は初級魔法だけで。本当にやばくなったらその限りじゃないけど、基本は魔法のみでね。」


魔法のみって、それ結構大変じゃね!?

いや、早期発見して見つからないうちに魔法を放てば……


「気づかれてないうちにこっそりとっていうのは無しで。ちゃんと正面から戦ってね。」


ぐっ!

やっぱり駄目か。

まあ、それだと戦闘じゃなくて奇襲からの殲滅、もしくは暗殺だからな。


「最後に、気軽に出来る近接戦闘の訓練の方法を教えておくね。」

「気軽に?」

「そう。手押し相撲って言うんだけど、知ってる?」

「………………は?」


え?

手押し相撲?

なんで?

それってただの遊びじゃん。

俺も昔学校とかで友達とやったりしてたけど、あれのどこが近接戦闘の訓練になるわけ?


「レント。ちょっとこっち来て。」


言われるままに立ってアデラードさんの側に向かう。

手押し相撲って言っても俺が知っているやつと同じだとは限らない。

そもそもこの世界に相撲ってあるのか分からないのだからひょっとしたら異世界言語適応がそれっぽい言葉に変換しているのかもしれない。

いや、きっとそうだ。


「まず、こうやってお互いが簡単に触れる距離で向かい合うんだ。」

「ふんふん。」

「で、この状態からお互いの手で押し合って相手を一歩でも動かしたら勝ち。押していいのは相手の手だけね。」


……………俺の知ってるのでした。

あいつらが関わってるのかな?

勇者とか。


「これは相手の視線や身体の動きから攻撃の兆候を察知したり、相手の意表を突いたり、フェイントのタイミングなんかを遊びながら学べるんだ。」


なるほど。

言われてみれば確かにそういうのの訓練にはなるかも。


「じゃ、実際にレントとやってみるね。」


その合図で俺はなし崩し的にアデラードさんと手押し相撲をすることに。

というか、俺はこれまでの訓練で疲れてるんですけど!?

その上でやれと!?

しかし、もう後には引けないというか、すでに始まってしまっているわけで、今更辞めることなんてできない。

ちくしょう。

やってやるさ!


「やっ! ………あれ?」


全力で突きに行ったらあっさりと躱されてしまいそのままの勢いでバランスを崩し一歩足を進めてしまった。


「いや、弱すぎでしょ……」

「ちょ、ちょっと油断しただけですよ!」


さっさと終わらそうと焦った結果、あっさりと自爆してしまった。

しかし、このまま負けっぱなしというのはいただけない。

これでも、仲間内では四天王の下から3番目で「くくっ。所詮、奴は四天王の中でも最弱。」とか言ってるポジションだった。

いや、当時は中学2年でちょっとそれっぽい感じになりかけてただけで、中二病じゃなかったから!

………えと、四天王最弱の西木田君の面子のためにも、ここで負けるわけにはいかない!


「もう一度です!」


再戦を申し込みまた挑む。


さっきのように一気に決めにかかるのではなく、様子を伺う。

まずは手を合わせないことには始まらないからな。

互いにどうすれば有利に事を運べるのか、フェイントを織り交ぜている。

ここ! と、見せかけて本命はカウンターでパワー勝……


「甘いよ!」


くっ!

躱されてしまったか。

だが、まだだ!


「パワー勝負なら勝てると思ってるのなら考えが甘いよ!」


超スピードで手を合わされてしまい、そのまま押し切られてしまった。

流石はSSランク、ということか。


「ま、こんな感じかな。遊びながら出来るから暇なときにでもやってね。」


悔しいが、こればっかりは仕方ないか。

経験に差がありすぎるってことだしね。

でも、これで後は宿に帰ってのんびりするだけだな。


「というわけで、訓練関連は全部終わったし、飲もう!」


………宿に帰らせてください。

お願いします。

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